壱頁完結物

「太宰さん」
「やあ妹ちゃん。今日は此処で会う気がしてたんだ」
芥川の末妹が墓地にやって来た。
其の手には花束が握られている。
「今日は織田作の誕生日だから」
「そうだね」
紫と橙で纏められた花束に不思議そうな顔をする太宰。

「如何したのその色の花束」


*****


「もう直ぐ仮装招宴が有るって中也さんが云ってたの。紫や橙が代表的な色だって教えて貰ったから織田作にも教えてあげようと思って」
「そうか。妹ちゃんは優しいね」

「当日は"お菓子をくれないと悪戯するぞ!"って声を掛けられたらお菓子を渡さないといけないんだって」


*****


「今度来たら織田作、お菓子くれるかな?」
其の声が震えている事に気付いて、太宰はゆっくりと末妹を抱き締める。
「織田作には私からも云っておこう。友人の頼みを断るような男じゃないさ」
「絶対…」
「うん、絶対伝える。シュッパイはしないよ」

「シュッパイ…?」


*****


「そう、シュッパイだ」
太宰の笑い顔に末妹の口元も緩む。
「ちなみに当日探偵社に来るとお菓子が貰えるから可愛い仮装をしておいで」
「ホント!?絶対行く!」
「待っているよ」
目尻の雫を拭って漸く笑顔になる末妹。

末妹がその場を去った後、太宰は墓石に向き直った。


*****


「全く、途中から君の誕生日の事忘れてたんじゃない?」
その場に座り込み橙の花を弄る。
「改めて誕生日おめでとう織田作。羨ましいよ、誕生日に妹ちゃんから花束を貰えるなんて」
溜め息を一つ吐き、直ぐに立ち上がる。

「あの子は私が幸せにするから見ていてくれ給えよ、織田作」


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