短編
※バレンタインポストお題
「澄ちゃんが太宰さんに贈ったチョコ」
「これ太宰さんにあげる」
「え!?」
大袈裟に飛び上がった太宰が慌てて受け取るとしっかり重さのある今日限定のアレ。
「真逆君から貰える日が来るなんて」
「それ日本酒風味なんだって、太宰さん好きだったよね?」
「そんな事まで覚えてくれてるの!?」
「本当に有難う。大事に食べるよ」
*****
※バレンタインポストお題
「小さい澄ちゃんが断固拒否してる太宰からのチョコ」
「妹ちゃ…」
「ぅぺぃいあああ!!」
「また変な叫び声上げて…」
逃げてしまった末妹にガックリと肩を落とす太宰。
「何を持ってるんだ」
「織田作!此れを彼女に渡しておいてくれるかい?」
「…其れは自分で渡さないと意味が無いと思うが」
「後ろに付いててやるから、頑張れ太宰」
*****
「今日は猫の日なんだって」
「会社に此れがあった。着けてみる?」
鏡花に渡された猫耳を装着する末妹。
すると其処に太宰がやって来た。
「おや、妹ちゃん何着けてるの?」
「にゃーんにゃん!」
「鏡花ちゃん退いて!」
「駄目」
「お願い!一瞬で良いから!」
「絶対駄目」
「にゃ、にゃ…?」
*****
※ホワイトデーポストお題
「澄ちゃんにお酒入りチョコを渡す太宰さん」
「妹ちゃん、此れ食べる?」
「チョコだ!」
太宰に手渡され、何の疑いもせず受け取ろうとする末妹の目の前で、箱が真っ二つになった。
「駄目、此れはお酒が入ってる」
射殺すような視線に、太宰はガックリと肩を落とした。
「鏡花ちゃん格好いい!」
「貴女は私が護る」
「…ちぇ」
*****
※ホワイトデーポストお題
「太宰さんと澄ちゃんだけで食べないとダメなチョコ」
「樋口さんから貰ったの、ゲエム付きのチョコだって」
そう云う末妹の手にはハート型のチョコ。
「ルールは?」
「二人で全部食べたら願い事が叶うみたい」
その言葉で太宰の目が輝く。
「よしやろう」
「やった!じゃあ…」
太宰の目の前で、ハートは真っ二つに割れた。
「はいどうぞ」
「…」
*****
※ホワイトデーポストお題
「澄ちゃんと中也さんが相合傘」
「帰るぞ」
喫茶店で雨宿りをしていた末妹に声が掛かる。
如何やら上司が迎えに来たようだ。
「あれ、車じゃないの?」
「生憎歩きだし傘も一本しかねえ」
すると末妹は何の躊躇もなく其の傘に収まった。
「仕方無いから此れで我慢してあげる!」
悪態を吐く中也の肩が少しずつ濡れていった。
*****
今日は食事当番だったと足早に家に帰ると、既に丁寧に作られたであろう料理の数々が並んでいた。
手前には楽しそうな表情の妹が二人。
「龍兄、誕生日おめでとう!」
「おめでとう兄さん」
嗚呼、誕生日とは失念していた。
「僕は良い妹を持った」
然しまだ二人とも嫁には行かせぬ。
*****
「りゅ、に…ぃた…ょぉ」
「何故僕を庇った!大莫迦者め!!」
捲し立てても赤い海は拡がる一方で。
「しん…でほし、なかっ…」
「其れは僕とて同じ事…!」
光を失っていく瞳から零れたのは大粒の涙。
「ずっと…あぃ、し…、りゅ…にぃ」
其の言葉と雫は赤い海に溶けていった。
*****
朝、息を切らして起き上がる。
先刻の映像に吐き気がして咳き込むと、バタバタと足音が聞こえた。
「龍兄大丈夫?随分咳が酷…如何して泣いてるの?」
赤に染まっていない妹を見て、兄は反射的に掻き抱いた。
「わっ!龍兄…?」
「…お前は僕が護る」
「だから僕を庇おう等と思うなよ」
*****
大きな瞳からハラハラと零れ落ちる涙を、幾度見ただろう。
マフィアでありながらマフィアらしからぬ優しい心の持ち主である彼女は、人の死を正面から受け取ってしまう。
「…辛いかい、妹ちゃん」
「……平気だよ、太宰さん」
ねぇ……縋ってよ。
そしたら、私が救ってあげるから。
*****
「あ、カタツムリだ」
「本当だ。よく見つけたねぇ妹ちゃん」
探偵社からの帰り道、太宰と歩いていた末妹が草むらに顔を寄せた。
「知っているかい?蝸牛の殻を取ったら蛞蝓になるんだよ」
「そうなの!?太宰さんやって!」
「え゛っ」
「やってやってー!」
「…今更嘘とは言えない」
*****
「中也さん知ってる?蝸牛の殻を取ったら蛞蝓になるんだって!」
「そりゃ嘘だ」
「え!?太宰さん嘘吐いたの!?」
「御免よ、純粋な君が可愛くてつい」
「じゃあ先刻中也さんも帽子取ったら蛞蝓になるって言ったのも嘘なの!?」
「手前、それ本気で信じたとは言わせねぇぞ…」
*****
楽しそうに笑う君は好きだけれど、私が隣に居乍ら他の男に愛想を振り撒くのはやめてくれ給え。
うっかり彼の弱味を握って脅しそうになるじゃないか。
でも、彼女の前でそんな事は云えないから
「そろそろ時間だよ」
彼女の手を取り相手を牽制するに留めた。
彼等の引き吊った顔に満足する。
*****