短編

「龍兄…」
妹が泣きながら寄って来た。
「如何した」
「私、龍兄と銀姉の妹じゃないの…?」
「何故そんな事を聞く」
「さっき中也さんがね、二人と違って私はよく喋るから、実は妹じゃないかもなって…」
「安心しろ、お前は僕達の妹だ」僕の黒獣が疼き始めた。

銀も刃を研いでいるようだ。


*****


「龍兄、樋口さんもお姉さんになるの?」
「何の話だ」
談話室でお茶を飲みながら話をする兄妹。
「最近ね、樋口さんが“オネエサンって呼んでみて”って云うの」
其処で湯飲みを取り上げる手が止まる。
「…は?」
「銀姉も前云われた事あるって」

「彼奴には灸を据える。もう呼ばなくて良いぞ」


*****


「芥川君の妹ちゃんだ!」
「ひぇ…」
探偵社にお遣いに来た筈なのに何故か太宰さんが居る。
「芥川の…?」
「警戒しなくて良いよ。お遣いに来たんだね、ほらお入り」
差し出された手に兄が殴られた瞬間を思い出した。

「な、殴らないで…」
「え、太宰この子殴った事在るの?」
「無いよ!!」


*****


「龍兄…私ね、実は男だったみたい」
「何…だと?」
思い切りバレる嘘を吐いたのに、兄は何故か信じてしまったらしく顔が青ざめている。
「そんな事は無い筈だ。お前の面倒は僕が見て来た。おしめを取り替える時にちゃんと」
「わー!ご免なさい!嘘です!!」

冗談が通じないって怖い…!


*****


「暑い…」
「そうだな」
炎天下の街中、半袖の私が汗だくなのに外套を着てる龍兄は涼しい顔。
「本当に暑いと思ってる?」
「僕は外套を脱げん」
「そうだけど、喉渇いた…」
腕で汗を拭う私の横で龍兄が立ち止まる。
「買ってやる」

「芥川君が妹にお茶を買い与えて居る!?」
「太宰さん!?」


*****


「龍兄、お腹空いた…」
ソファに寝転びながら龍兄にご飯を求める。
「樋口に頼むか。おい樋口」
「何ですか先輩」
「飯を作れ」
「えっ!私が先輩の為に食事を作っても宜しいのですかそれは毎日ですかそれならプロポ」
「妹の分だ、さっさとしろ」

樋口さんの視線が凄く痛かった。


*****


今日はお休みだから龍兄が珍しく転た寝をしている。
横向きの体から伸びる腕に昔を思い出して頭を乗せてみた。
「…如何した」
「一緒に寝て良い?」
「ん…」
また目を閉じる龍兄に寄り添うと反対の腕が伸びて来てぎゅっとしてくれた。

銀姉が毛布を持って来てくれて、二人でお昼寝。


*****


大仕事を終えて帰還する龍兄の為に銀姉と二人で一寸豪華な食事を作る。
銀姉と待つ事暫く、龍兄が帰って来た。
「お帰り!今日のご飯は豪華だよ!」
食事を見た龍兄は、膝から崩れ落ちた。
「い、妹達が…僕の為にこんな食事を…」
「龍兄何で泣くの…?」

大泣きする二人に銀姉が困り果てた。


*****


「お兄ちゃんは名探偵なんだよ!軍警からも頼りにされてるんだー」
「龍兄はね、すっごく強いんだよ!沢山部下を従えててね!」
「何時もお菓子くれるし」
「ご飯作ったら喜んでくれるし」
「「自慢のお兄ちゃんなんだよ太宰さん!」」
「う、うん…知ってる…」

「「妹が可愛すぎて辛い」」


*****


「部下の樋口だ」
紹介されたのは綺麗な金髪を一つに束ねた美人な女の人。
挨拶すると微笑んで返事を返してくれた。
「綺麗な人が隣に居たら気が気じゃないんじゃない?」
と兄を揶揄うと真顔で
「美人なら家に二人居るから慣れている」

赤面する私の向かいで樋口さんが悔しそうな顔をしていた。


*****


「龍兄ありがと」
手鏡で仕上がりをしっかりと確認する。
龍兄は何時も綺麗に結んでくれるから毎日の楽しみなのだ。
「今日の結い紐は朱色だが良いか」
「うん!」
「明日は何色がいい?」
「気が早いよ、夜には考えるから」
「そうか」

微笑む龍兄も、実は楽しみにしてくれてるのかな?


*****


「お義姉さんって呼んでみて」
突飛な申し出に理解が追い付かず首を傾げる。
「樋口さん身内だったの?」
「だったと云うか、これからなると云うか…」
視線を彷徨わせる樋口さんの頬がほんのりと赤い。
「よく解らないから龍兄に聞いてからで佳い?」

「待って、先輩には言わないで!」


*****


マフィアに所属しているのに末妹は怖い話が嫌いだ。
「ひぇ」
僕の外套に入り込み、怖いもの見たさでテレビを覗いてはまた隠れる。
「怖いなら見なければ良いのに」
「銀姉、私怖くないよ。だってあれは奇妙なだけ…ひゃい!」
「此の子は…」

「黒獣は怖がらぬのにな…」


*****


「エリス嬢と一緒に焼き菓子を作ったの!一緒に食べよ」
芥川さんの妹が籠を持ってやって来た。
焼き立ての匂いがする。
「では紅茶を入れましょう」
「有難う広津さん!」
「お、旨えな」
「立原さんまだ食べちゃ駄目ー!」
「ふふ、許しておやりなさい」

コイツが来ると談話室は毎度騒がしい。


*****


「後ろから抱き付いたら如何なるんだろう」
鏡花ちゃんと喋る芥川の妹さんを見て太宰さんが呟く。
「止めておけ太宰」
「佳くない結果しか見えないよ」
「乱歩さんまで…」
こてんぱんに云われつつもジリジリと近寄って行く太宰さん。
「妹ちゃん!」
「わふぃぉ!!」

失神してしまった。


*****


「お土産沢山購ったね」
部屋に購入した物を並べる末妹。
「そうだ、此れ龍兄と銀姉に!」
徐に差し出してきたのは末妹が一番気に入っていた着ぐるみの根付。
「今日は沢山遊んでくれて有難う!」
「…考える事は同じか」
僕が袋から同じ物を取り出すと、銀の手にも同じ物が。

「皆でお揃いだ」


*****


「明日は温泉だね龍兄!」
鞄に荷物を詰めながら満面の笑みを浮かべる末妹に芥川は苦い顔をする。
「風呂は嫌いだ」
「お風呂以外にも卓球とか珈琲牛乳とか浴衣とか楽しい事一杯あるよ」
「浴衣…一人で着れるか?」
「ぎ、銀姉に着せて貰うもん!」
「そうか」

芥川は漸く楽しみを見出だした。


*****


「今日は恋人の日なんだって!」
「太宰さん…私達恋人じゃない…」
「そんな細かい事は気にしない!」
「一番大事な処!」
日常になったやり取りに珍しく鏡花が立ち上がる。
「此の子は私の彼女だから」
「きょ、鏡花ちゃん…!」

「だから諦めて」
「私、何でこんなに拒否られてるの…?」


*****


「あれ、ブラック?」
「飲めるようになった!」
コップに入った珈琲をグイと飲んだ末妹は眉間に皺を寄せた。
「…なってないよね?」
「太宰さんあげる」
「え、…何これぬるい!幾ら君と間接キスが出来てもぬるい珈琲は嫌!」
「でも太宰さんが飲まないとなくならない」

「全部飲みなさい!」


*****
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