幸村精市

【タピオカ事変】
+三強 ギャグ 真田キャラ崩壊注意


「二人とも、頼みがあるのだが」


ある日の放課後、真田が神妙な顔でそう切り出した。
俺と柳は顔を見合わせてから真田に向き直る。


「どうした、改まって」

「真田らしいけど、何かあったのかい?」


すると真田は言い澱んでいるのかしばらく沈黙した後、こう言った。


「タピオカなるものを食してみたい」

「「タピオカ」」


思わず声が揃った。
だが当の本人は真剣な面持ちで俺達の反応を窺っている。
笑い飛ばすべきではないだろう。


「…理由を聞こう」


柳が何とか平静を装い問い掛ける。


「クラスの女子にタピオカを知らない奴は人間じゃないと言われた」

「え、雷出せる時点で人間じゃないじゃん」

「精市!!」


俺の発言はさておき、真田の頼みを受け入れた俺達はタピオカの店に向かった。


「…女子しかいないぞ」

「これに並ぶのか…?」

「男三人でこれはキツいな…」


尻込みしていると二人と目が合った。


「最終手段に出るしかない」

「そうだね…これは俺達だけでは手が打てなさそうだ」

「頼んだ、幸村」



「タピオカ」


連絡してすぐ来てくれた俺の彼女は、説明を聞いて同じ反応をした。


「真田君が流行りに乗るなんて珍しいね」

「タピオカを知らない奴は人間じゃないと言われたらしい」

「え、雷出せる時点で人間じゃ」

「そのくだりもうやった」


居たたまれない表情の真田の背を押し、俺達は列に並んだ。


「久々に飲むなぁ、って三人とも飲まないの?」

「いや…」

「む…」

「見た目が…ね」


カップの底に沈む黒い粒が不気味でストローに口を付ける気にならない。
他の二人もきっと同じ心境だろう。


「せっかく並んだのに。ほら精市君、あーん」

「…っ」


彼女からのあーんに逆らえる彼氏がこの世にいるだろうか。


「美味しい、けど…ブヨブヨする」


甘いミルクティーと同じく甘い黒い物体(これがタピオカらしい)を咀嚼しながら、俺はきっと微妙な顔をしているだろう。
薄味を好む柳は眉間に皺が寄っている。
残るは


「真田君、頑張れ」

「言い出しっぺが飲まない訳無いよね?」


俺達の圧力に負けた真田は腹を括った。


「…」

「どうだ弦一郎」

「美味しいかい」

「あれ、柳君と同じ様な顔してる」


真田の眉間に跡が付きそうな程皺が寄っている。
しかも心なしか手も震えている。


「え、ちょっ…真田君!」


そして何を思ったかタピオカのイッキ飲みを始めた。


「錯乱したか」

「相変わらずやることが極端だなあ」


ようやく全てを飲み干した真田の顔は真っ青だった。


「だ、大丈夫か…?」

「お水飲む?」


差し出された水も飲めないのか虚ろな目が俺達に向けられる。


「俺には、早かったようだ…」

「真田!」

「真田君!?」

「…弦一郎」


そのまま突っ伏した真田は二度とタピオカは飲まないと誓ったらしい。
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