「ほら娘ちゃん、高い高ーい」
探偵社に遊びに来た中也の娘は太宰に抱っこされていた。
「あおしゃばしゃんたかーい！」
「でしょー。何処ぞの蛞蝓なんかよりずっと高いよね！」
「なめくじ？」
「喧嘩売ってんのか」
返事をした中也に娘が問う。
「ぱぱなめさんなの？」

「なめさんじゃねえよ」


*****


また喧嘩が始まりそうになり、太宰は横に居た国木田に娘を渡した。
「如何しろと云うんだ…」
勃発した喧嘩と腕に抱えた娘を交互に見やり溜め息を吐く。
「くにきだしゃんもたかーい」
「ん？嗚呼、身長の事か」
辺りを見回す娘に太宰を真似て持ち上げてみた。

「どうだ、もっと高いぞ」


*****


「すごーい！」
娘の叫びに喧嘩の手が止まる。
「如何した…ゲッ」
「やられた…」
娘を高い高いする国木田を視界に入れ意気消沈する二人。
「ぱぱ！あおしゃばしゃん！みてー！」
「見てるぞ」
「良かったねえ娘ちゃん」
引きつる顔など見ている訳もなく。

「いままででいちばんたかーい！！」


*****


「くにきだしゃん、ありがと！」
小さな手で国木田の頭をよしよしと撫でる。
「…何をしている」
「あのね、いいことしたらこうやってほめてもらうのよ」
「いやそれは子供の話で…」
と止めさせようとした瞬間、二人の靴音が近付いて来た。

「娘が撫でてやってんだ。素直に喜べ」


*****


「あ、有難うな…」
二人の圧に負け娘に礼を云うと嬉しかったのか首にぎゅっと抱き着いた。
「またたかいたかいしてね！」
「仕方のない奴だ」
そう云いながら満更でも無い顔をする国木田の肩にスルリと手が乗った。
「ねえ…そろそろ私も抱っこしたいのだけど」

「普通に云え太宰！！」


*****


其れから代わる代わる抱っこして貰った娘は最後にまた国木田の処へやって来た。
「くにきだしゃん、だっこ」
「またか」
口だけは仕方無いと云いつつ抱っこしてやると矢張り嬉しそうな顔をする娘。
「ぱぱ！」
「何だ」
「くにきだしゃんとけっこんする！」

「「……は？」」


*****


「おい、背がデカいからとか抜かさねえよな…？」
「残念だったね中也」
「黙ってろ太宰！」
また喧嘩を始める二人。
「悪いが俺の理想の女性は四年後に現れるんだ」
「そなの？」
「嗚呼。しかしお前は美人になるだろうから言葉には気を付けろよ」

無自覚の口説きに騒然とする探偵社の或る日。



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