壱頁完結物
「あおしゃばしゃん、あかちゃんってどやってつくるの?」
中也の娘が飲んでいたジュースから口を話した直後の発言に、太宰は珈琲を数滴溢した。
「…如何してそんな事を?」
「ままがね、そろそろふたりめつくりたいって」
「子供の前でそんな話する…?」
光景が容易に想像でき、頭を抱える。
*****
「でもね、ぱぱにきいてもおしえてくれないの」
「頑なに拒むのは火を見るより明らかだね」
「こーのとりさんがはこんでくるっていってたけど、それじゃつくらないもん」
「その矛盾に三歳にして気付いた事は褒めてあげよう」
膨れる頬を楽しそうにつつく太宰はさて如何したものかと考えた。
*****
「あおしゃばしゃんはものしりだからしってるかなとおもって!」
父親に似ず自分に懐く娘の目は輝いており、太宰が嘘を吐くなど絶対に無いと信じている。
「そうだなぁ。教えてあげても良いけど一つ頼まれてくれるかい?」
「?」
「パパが迎えに来たときに(嫌がらせを)したいんだけど」
「いいよー!」
*****
「さて、此処に二つのドーナツがあるだろう?」
太宰はトレイに丸いドーナツと棒状のドーナツを乗せて戻ってきた。
「丸いのがママで、棒のがパパね」
「うん」
「ママの中に、パパがこうやって入るんだよ」
中央の穴に棒状のドーナツを差し込むと、娘は首を傾げる。
「ままのどこにぱぱがはいるの?」
*****
「お腹だよ」
「…!?」
娘の脳内では母の腹に父の頭が突き刺さったグロテスクな描写が浮かんでいる。
「そうこうしてる内に一つになって、赤ちゃんになるんだ」
太宰はドーナツを千切ってトレイの上に雑に積み上げた。
娘の顔が真っ青になる。
「ぱぱとまま…こなこななっちゃうの…?」
「……ん?」
*****
「ぱぱとままのこなこなをきゅってしたらあたしになるの!?」
一生懸命千切れたドーナツを纏める娘にはしょり過ぎて誤解を与えた事を理解した。
「…そうだよ」
太宰は訂正を放棄した。
「そうなの!?ぱぱとままはどうなっちゃうの!?」
「んー、そうだなぁ」
隣のママ友らしきご婦人たちが固唾を飲む。
*****
「此れが三等分されるんだよ」
太宰は娘が纏めたドーナツを三つに分けた。
「此れがママ、パパ、そして君になるんだよ」
「……じゃあぱぱは、ふたりめのぱぱなの?」
娘の口から出たとんでも発言を太宰が拾わない訳がない。
「そう云う事になるね!」
「な、なんてこった…」
「後でパパに聞いてごらん」
*****
「おう、遅くなって悪かったな」
暫くして中也が迎えに現れた。
トレイの上に乗った散々のドーナツを凝視する。
「何だそれ」
「あおしゃばしゃんがね、あかちゃんのつくりかたおしえてくれたの!」
「…其の結果が散々のドーナツだってのか?」
懸命に首を縦に振る娘は嘘を吐いている様には見えない。
*****
「ほら娘ちゃん、あれ聞かなきゃ」
後ろから太宰が話し掛けると、娘はハッとして中也を真剣に見つめた。
「ぱぱは、ふたりめのぱぱなの…?」
「…は?」
「あたしがつくられるときにひとりめのぱぱはこなこななるんでしょ?」
「手前何教えやがった!」
「君が教えなかった代償とでも思ってくれ給え」
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