壱頁完結物


「あおしゃばしゃん!」
「…なぁに」
「いまね、あたしね、おこなの!」
頬をパンパンに膨らませた燈髪の幼女の呼び掛けに、太宰は気怠そうに返事をする。
「わぁ、ほっぺモチモチだね」
「もう!おはなしきいて!」
「はいはい、何を怒っているんだい」
「ぱぱがね、さいきんあそんでくれないの!!」


*****


「え、あの中也が?」
「そう!おしごとだからっていっつも!」
「ふぅん…」
太宰は少し考えた。
娘の事を「愛娘」と称する程に大事にしているし、どんなに忙しくても出来るだけ毎日娘と接しようとしていたと聞く。
「ふむ、パパの事を探偵社で調べてあげようか?」
「ほんとー!?」


*****


「という訳で頑張り給え敦くん」
「え゛、僕ですか…?」
今しがた書類整理が終わり休憩しようとしていた敦の顔が引き吊る。
「そりゃそうだよ。私の部下だもの」
「ご自身で調べて下さいよ」
「そうよ!あおしゃばしゃんしらべてくださいよ!」
「この子は直ぐ人の真似をする…」
「せいちょうのあかし!」


*****


渋々、太宰は捜査を始めた。
国木田の眉間に皺が寄っていた事など気にも留めていない。
「パパは今日何処に居るんだい」
「んと、」
幼子は顎に手を当てて必死に考えるが
「……わかんない」
「大丈夫、その解答は想定済みだから」
幼子を抱き直し、太宰はヨコハマの街を進む。
「目星もついてるしね」


*****


「およふくやさん…」
「パパはこの中だよ」
辿り着いたのは如何にも高級そうな子供服の店だった。
パステルな装いに幼子は目を丸くする。
「ほんとにぱぱいるの?」
「居るさ、私を誰だと思っているんだい」
「あおしゃばしゃん」
「…うん、そうだね」
盛大な溜め息と共に太宰は店へと足を踏み入れた。


*****


「どれすいっぱーい!」
幼子は感嘆した。
落ち着いたお姉さん風のドレスからフリルたっぷりの可愛いドレスが店を覆っている。
「すごーい!」
「コラコラ、静かにしないとパパに見つかってしまうよ」
騒ぐ幼子を窘め店員に話をつけ、二人は工房へと案内される。
「ここどこ?」
「もう直ぐパパに会えるよ」


*****


「ぱぱー!」
「うお!?」
幼子は見つけた父の足に抱き着いた。
突然の事に驚いた父は思わず声を発す。
「なっ、手前なんで…」
「あおしゃばしゃんたんてーしてくれたの!」
「…は?」
「『パパが遊んでくれない!』って激おこだったのだよ」
後ろから出て来た太宰に米神の血管が浮いた。


*****


「…此処が判ったなら俺が何してるのかも判ってんじゃねえのか」
「勿論。娘ちゃんにバレたくないってのもね」
「本っ当癪に障る奴だぜ」
バチバチと火花を散らしている間に、娘は何かに気付いて奥へと駆け出した。
「あ、コラ!其処行くな!」
「観念しなよ中也」
「手前何時か死なす」


*****


「あかいどれす!!」
「はぁ…前日まで伏せる筈だったのに」
娘が辿り着いたのはジョーゼットに丁寧に着せられた葡萄酒色のドレスだった。
丈的に幼児用だ。
「これあたしのどれす!?」
「そうだ。今度招宴に行くっつったろ。其処での晴れ着だよ」
「きゃー!」
歓喜に悲鳴を上げ娘に大人二人は耳を塞いだ。


*****


「あおしゃばしゃん、にあう!?」
「似合うよ、まるでお姫様じゃないか」
ついでだと試着し、嬉しくてクルクルとその場で回る娘に太宰も頬を緩める。
「今度の招宴で部下に娘ちゃんの存在が知れる訳だね」
「何方が来ようと捻り潰してやるよ。然しマジで似合うな彼の色。完璧じゃねえか」
「…自画自賛」


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