壱頁完結物

「ぱぱー!みてー!」
顔に満面の笑みを浮かべ、幼女が父に駆け寄る。
「何持ってんだ?」
「れもんさんにもらったのー」
「おー、よかった…」
な、と云いかけて一瞬口が止まった。
「手前、其れ…」
幼女の手の中にあるのは、何時も梶井が持っているアレだ。

「あのねー、ここをねー、ぽんっ!てひくとねー」


*****


「うわ!莫迦手前!!」
「なかみねー、あっ!」
幼女が中身を見せようとした瞬間、父が其れを奪い取る。
そして其の侭力任せに外へと放り投げた。
「ったく梶井の奴、娘に爆弾持たせるなんて何考えて…」
安堵の溜め息を吐き娘を見ると、瞳一杯に涙を溜めて父を睨み付けていた。

「お、おい…」


*****


「うわあああん!!」
直後、幼女は出しうる限りの大声で泣き始めた。
父が説明しようと膝を折る。
が…
「あれ、なかみ…あっ、あめちゃん、だってぇ……れ、れもしゃ、くぇたの、ぱぱとたべ……ってぇ…なん、すてちゃったの…うええええん!!」

「えっ…」
父の顔から血の気が引いた。


*****


「確認しなかったパパが悪かった。本当に御免な」
「ばかばかぁ!ぱぱなんかきらい!!」
「ぐ…」
愛娘に嫌いと云われ心が折れかける父。
「もし、如何かしたのかえ」
「姐さん…」
紅葉が父娘の前に現れた。
其の手には何かを持っている。
「姐さん、其れは」

「嗚呼、此処に入る前に上から降ってきてのう」


*****


「中身は飴玉じゃったし、拾い物じゃが娘っ子にやろうと思ってな」
ほれ、と差し出され幼女の目が輝きに満ちた。
「れもしゃんのー!!」
「?」
「否、その…」
事の顛末を説明すると、紅葉は口を袖で隠して笑い始めた。
「其れで泣いておったのか、可哀想にのう」

「ぱぱひどいのよ!」
「そうじゃのう」


*****


「ねねしゃんにもあげゆ!」
「おや、くれるのかえ?有難う」
檸檬爆弾型の飴玉入れは無事に開封され、幼女は嬉しそうに紅葉と食べ始めた。
「中也にはやらんのか?」
「ぱぱはぽいしたからだめ!」
「返す言葉もねぇ…」

項垂れる父は如何やって仲直りするかをひたすら考えていた。



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