壱頁完結物
首領と一緒に居てくれ。
中也は娘にそう云い残して拠点を出た。
娘は父の云い付けを守り、大人しく首領の寝室に腰を下ろす。
「ぼしゅ…ぱぱね、おこだったの」
なんでかなあ?との無邪気な質問も、寝たきりの首領は答えてくれない。
廊下を叩く靴の音に、娘は慌てて寝台の下に潜り込んだ。
*****
「ねねしゃん」
「おや、こんな処に居ったのかえ」
銃撃の音が消え、紅葉の話し声が聞こえたのか、娘が寝台から這い出て来た。
「すごいおとした」
「そうじゃのう」
「なにしてたの?」
「…敵と戦っておったのじゃ」
「やっつけた?」
「否、逃がしてしもうた」
娘は蒼い目を数回瞬いた。
*****
「ぱぱもねねしゃんも、おこなの?」
「否、困っておるのじゃ」
「どうして?」
「首領が死んでしまうかもしれんからじゃよ」
「おいしゃさんは?」
「医者では治せぬ。とある人を殺さねば首領は助からぬのじゃ」
「…?」
首を捻る幼子を抱き上げた紅葉は憂いを帯びた目で言葉を紡ぐ。
*****
「そなたも何時か、同じ様な言葉を口にする日が来るじゃろう」
「ひとを、ころすの?」
「其れが此のポートマフィアと云う組織の掟じゃ」
困惑の表情を浮かべる幼子に紅葉は息を吐いた。
「まだ此の話は早かったかの。さ、お八つにしよう」
部屋を出る直前、寝台に染みた赤をジッと見つめた。
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