壱頁完結物
今日に限って娘が梶井の家に行きたいと云い出した。
家に来て貰うよう促してみても首を縦に振らず、仕方無く送り出したものの。
「俺…娘に祝ってもらえねえのかな…」
「お泊りする訳じゃないんだから大丈夫よ」
「おかげで昼間からワインが飲めるでしょ。誕生日おめでとう、中也」
*****
陽が暮れて来た頃、娘が梶井に連れられ帰宅した。
「ただいま」
「おかえり、良い子にしてたか」
「うん!」
楽し気に頷く手には小さな封筒が。
「ほら、嬢」
梶井が背中を押すと、娘は気恥ずかしそうに封筒を俺に差し出した。
「パパにくれるのか?」
「ん」
娘は白衣の後ろに隠れてしまった。
*****
不思議に思って封筒を見ると、拙い線で「パパへ」と書かれていた。
まだ娘に文字は教えていない筈だが、梶井が書いた物では無い事は判る。
そして中には一枚の手紙。
「おたんじょうびおめでとう、パパだいすき」
と書かれた其れに、酒で緩んだ涙腺が決壊した。
「ぱぱ、よんでくれた?」
*****
「嗚呼、お出で」
涙を拭く事も忘れ娘を掻き抱いた。
朝から梶井の家に行ったのは此れを作る為だったのだと思うと昼間拗ねていたのが莫迦らしくなった。
「一生懸命書いてくれたんだな…有難うな…」
「じょうずにかけてた?」
「嗚呼、凄く上手だ」
「おたんじょうびおめでと、ぱぱ!」
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