壱頁完結物


「ぱぱ…ぽんぽんたいたいなの…」
とある日、中也の娘が父に腹痛を訴えた。
眉間に皺を寄せ、かなり痛そうにしている。
「大丈夫か?首領に診て貰おうな」
「うぅ…」
「すぐ連れてってやるから少しだけ我慢してくれ」

中也は娘を抱え、首領の執務室へと向かった。


*****


「腸炎だね」
首領は努めて冷静にそう告げた。
点滴を打った娘は落ち着いたのかスヤスヤと眠っている。
「少し熱もあるから、暫く此方で様子を見た方が良い」
「はい」
中也は安心と不安を織り混ぜた溜め息を吐いた。

「嫁に報告してくるので、娘を頼みます」
そう云って中也は部屋を出た。


*****


其れから数日後、まだ首領の保護下に居る娘は完全に治ったのか寝台の上で口を尖らせていた。
「まま、あいすたべたい」
「首領に冷たいのはまだ駄目って云われたでしょう?」
「むぅ…ねぇ、ぱぱは?」
「パパはお仕事よ」
「むむむ…」

「ぱぱ、あたしよりしごとのほうがだいじなんだ…」


*****


「今度は何のドラマを見たのかしら」
母は口許を隠してクスリと笑う。
と其処に、仕事終わりの中也が姿を現した。
「調子は如何だ?」
「ぱぱー!」
「お、元気だな」
安心し口許を緩める中也の手にはビニール袋。

「ぱぱ、それあいす!?」
「アイスじゃねぇがお前の好きな物だぞ」


*****


「なんであいすじゃないの…」
「首領にまだ駄目だって云われたろ?」
「ままとおなじこという…」
頬をぱんぱんに膨らませる娘に苦笑を漏らす。
「ほれ、梶井からだ」
袋から取り出した檸檬を見て娘は一変、目をキラキラと輝かせた。
「れもんだー!」

「甘くして食べような」


*****


翌日、すっかり元気になった娘は首領の診療室から退院した。
「元気になって良かったな」
「一時は如何なるかと思ったわ」
エリス嬢と手を繋ぐのを後ろから見守る夫婦は安心の表情。
「ぱぱ!まま!」
「如何した?」
「あいす!」
「またたいたいなるわよ?」

結局ご褒美に買ってあげた。



.
21/33ページ