短編
「まめまきしよー!」
「何で君探偵社に居るの」
中也の娘が太宰の机の上で豆の入った升を持って仁王立ちしている。
「ぱぱがね、あおしゃばしゃんにたくさんまめまいてこいって」
「あんの蛞蝓…」
「俺も許す、ありったけぶつけろ」
「国木田君!?」
「いくよ!おにはそとー!」
「いだっ!」
*****
「おそとさむそう」
「寒いぞ、しっかり温かくしろな」
そう云い乍ら娘に上着を着せ、マフラーを巻く中也。
「今日の帽子はどれだ?」
「うさたん!」
「うさたんだな」
うさ耳付きの帽子を被せると、娘は嬉しいのか得意気に胸を反らせた。
「にゃんにゃん!」
「そりゃ猫だ」
*****
「りゅー!たんじょびおめとー!」
「知っていたのか」
「ぎんちゃんがおしえてくれたの!」
はい!と両手を伸ばされ、仕方無し中也さんの娘を抱き上げる。
「いちにちたんのーしていーよ!」
「ずっと抱いておけと」
頭を撫でて来る幼子を前に、無意識に頬が緩んでいた。
*****
「ぱぱ、まま。らんどせるとせーふくどう?」
「天使だな」
「真顔でサラッと云ったわね」
「毎日送り迎えしてやるからな」
「甘やかし過ぎよ中也」
「誘拐されたら如何すんだよ」
「あら、ポートマフィアに楯突いたら如何なるか教えてあげれば良いじゃない」
「いのーつかえるからだいじょぶ!」
「だが…」
「わかった!りゅーとがっこいく!」
「芥川は確かに便利だがやめろ」
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「ぱぱ、まえがみながいね」
「そうか?」
「きったげるー」
「…否、特に不自由してねえから大丈夫だ、有難うな」
「まぁまぁえんりょしないで」
「青鯖みてえな事云うな!」
「そういわずに」
「此方来んじゃねぇ!!」
「如何したのその前髪、敦くんの真似かい?」
「んな訳ねぇだろ…」
*****
「たっきゅーしたい!」
「嬢にはまだ難しいかな」
「なんでー?」
「ラケットが大き過ぎる」
梶井が持たせたラケットが手を滑り落ちる。
其処に他の客の球が飛んできた。
するとラケットが一人でに動き、強烈なスマッシュを返した。
「いのーつかえばできる!」
「…上手になったねぇ、嬢」
*****
「あめあめふれふれ~」
橙色の髪を揺らし、お揃いの色の雨具で歩き回る幼子。
「ぱぱおそいなぁ」
本降りの雨の中、父が来るであろう方角を見つめると、お揃いの色の髪が目に入った。
「ぱぱ!」
「悪い、遅くなった。車停めらんなくてな」
「見て!びちょちょ!」
「帰ったら風呂だな」
*****
「おじーちゃんだぁれ?」
古い着物を着た老人に橙色の髪の幼子が話し掛ける。
「儂か?耄碌爺とでも呼んでくれ」
すると後ろから驚いた顔の父がやって来た。
「手前…判じ物師の…」
「ぱぱ!このおじーちゃん、もーろくじじーっていうんだって!」
「こら!失礼だろ!」
「素直な子じゃのう」
*****
「ねえ、いいでしょ…?」
「っ…」
我ながら女の上目遣いには弱いとつくづく感じる。だが、此処で折れる訳にはいかねえ。
「駄目だ」
「なんでぇ!?けーきおかわりするのー!」
「もう腹パンパンだろ。たいたいなるぞ」
「ならないもーん!」
「我儘云う奴にはサンタさん来ねえぞ」
聖誕祭の夜は戦争だ。
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