壱頁完結物

部下の悲鳴がアジトに響き渡る。
「如何した」
「判りません、敵が侵入した形跡は無いのですが…」
部下に告げられた場所へと向かう。
侵入者じゃないとしたら内部の裏切り者か?
何て悠長な事を考えていた事を、物凄く後悔している。

「如何しちまったんだよ…」
其処には娘が佇んでいた。


*****


「パパ?」
「手前…其れ、真逆…」
「見て。あれもこれも全部浮いちゃう…」
「…何が在ったんだよ」
「ここの人たちね、パパのこと悪く云ってたの。パパは幹部で、みんなのためにたくさんがんばってるのに」
近くに居た男の頭を掴み壁へと投げ飛ばす。

「パパを莫迦にする人、大きらいなの」


*****


女の子は成長すると父親から離れていくと聞く。
だから俺を大切にしてくれる事は素直に嬉しかった。
俺の異能力を継いでいるのも知っていたし、日頃から汚濁の事も云い聞かせて来た。
なのに…
「何で使っちまったんだ…!」

「大人には普通の力じゃ勝てなかったの」
其の手首には痣があった。


*****


「乱暴されそうになって、怖かった」
「…そうか」
「御免なさいパパ」
「解った、解ったから…謝んな」
今から太宰を呼んで間に合うのか?
本人はまだ平気な顔をしているが、まだ幼い娘が長い時間保つとは思わない。
「如何すりゃ佳いんだよ…!」

俺は、俺の異能力のせいで娘を失うのか…?


*****


「パパ、泣かないで」
近付いて来るが俺には触らない娘。
触ったら如何なるか解らねえもんな。
俺も触るのが怖い。
俺がまた娘を腕に抱けるのは、亡骸になってからなのか?
そんなの、そんなの絶対に許さねえ。
「太宰のポンツク、何処ほっつき歩いてやがるんだ!」

「呼んだ?」


*****


「…は?」
「あ、あおしゃばしゃん」
「ちゃんと太宰さんって呼べるでしょ…」
全く、なんて頭を掻きながら隣に太宰が突っ立っている。
「急に電話して来たと思ったら汚濁を解除しろなんてね。美少女じゃなけりゃ断ってたよ」
「やだー、美少女だなんてー」

状況に頭が追い付いていかねえ。


*****


太宰が娘の頭を掻き混ぜるように撫でると、みるみる汚濁の症状が消えていく。
「ありがとあおしゃばしゃん」
「報酬はデート一回ね」
「其れはパパが許さないからだめー」
「えぇ…?」
情けねえ声を出す太宰を尻目に娘がまた寄って来た。
「ね、パパ泣かないで」

私は大丈夫だよ。


*****


太宰に足払いを掛けてから娘を痛いぐらいに抱き締める。
「パパ、いたい」
「心配したんだぞ!そう云う事は早く云え!!」
腕の中で肩が跳ねたのが判る。
「…御免なさい。パパに知られる前に汚濁を解除してもらおうと思って…」
小さな腕が首に回る。

「そもそも何で太宰の番号知ってんだ」


*****


「何かあったら電話しておいでって私が教えたのだよ」
実際役に立ったでしょ?と得意気に云われると無意識に腹が立つ。
「今回は助けられたが、娘に余計なちょっかい掛けたら容赦しねえからな」
「デートも駄目?」
「当たりめーだ!」

クスクスと笑う娘に心の底から安堵した。



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