壱頁完結物

「ぱぱはさんたさんみたことある?」
娘の唐突な発言に、俺は飲んでいた珈琲を吹き出しそうになった。
「何でそんな事聞くんだ」
「れもんさんがね、くりすますはさんたさんがおうちにきてぷれぜんとくれるんだって」

「だから、ぱぱはみたことあるのかなって」
「梶井…吹き込みやがったな」


*****


父の苦い顔など露知らず、娘は目を輝かせ俺の返答を待っている。
さて、如何したものか。
「しろいおひげであかいおようふくきてるんだって!」
「…お、おぉ!見た事あるぞ!」
「ほんと!?」
「話した事もあるぞ」
「ぱぱすごーい!!」

良心が痛め付けられる音が脳内に響く。


*****


「あたしもみれる!?さんたさん!」
「えっ…」
子供の好奇心とは時に恐ろしい物だと今正に実感する。
俺は其処まで嘘が上手くねえんだ。
「さ…、サンタさんは夜中にしか来れねえんだ。でも手前はもう寝ちまってるだろ?」
「そっかぁ…みれないのかあ…」

肩を落とす娘が可哀想でならない。


*****


「でもさんたさんはなんでよるにくるの?」
俺の脳内のキャパがそろそろ限界に近付いて来た。
誰か助けてくれ。
「あー…其れは、」
「サンタさんは夜にちゃんと寝ているか如何かで良い子かを判断するからさ」
「れもんさん!」
「ですよね、幹部殿」#文ストプラス

「あ、嗚呼そうだ。判ったか?」


*****


梶井が報告書を机の上に置き、娘の頭を撫で乍ら笑い掛ける。
「だから嬢がぐっすり寝ていればご褒美に贈答品が貰えるのだよ」
「そうなんだ!くりすますははやくねなきゃ!」
「うんうん、嬢は良い子だなあ」

「梶井、助かったぜ」
「僕が蒔いた種なので責任は取らないと」


*****


夜。
「あら、もう寝たの?」
「サンタさんは夜ちゃんと寝てる子に贈答品をくれるって梶井が吹き込んだ」
「流石ね」
妻が娘の枕元に贈答品を置き、俺に接吻をする。
「私には来てくれないのかしら」
「お望みなら叶えてやるぞ?」
「ふふ、楽しみだわ」

俺達も寝台に入り、夜は更けていった。


最後だけ八雲さん
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