壱頁完結物


「はい、注射しましょうね」
「いやっ!」
「首領のは痛くねえから大丈夫だ」
幼い娘は幾つもの予防接種を受けなければいけない。
「ぱぱぁ、ぼしゅがいじめるの…」
「お前が元気に遊べるようにしてくれてるんだぞ」
「いや!いたいのやっ!」

「済みません首領…」
「小さい子は仕方無いよ」


*****


「終わったらパパと遊べるぞ」
「いまあそぶのー」
「首領の注射が終わってからな」
「やぁだぁ!!」
俺にしがみついて離れない娘に困り果てる。
「それじゃあ中也君の格好良い話をしてあげようかな」
「…ぱぱの?」

物で釣ると上手く行くと云うが、俺としては複雑な内容だな…。


*****


「其処で異能を使って敵を薙ぎ倒して…」
「すごーい!ぱぱかっこいー!」
俺は娘の肘を掴み、余り話を聞かないよう努めた。
首領に評価されるのは嬉しいが何せ恥ずかしい。
「ぱぱ、なんでおててつかんでるの?」
「其れより首領の話聞かなくて良いのか?」

「はっ!それでそれで!?」


*****


「最後如何なったのかパパに聞いてご覧」
首領がそう云うと娘は俺を見るために顔を上に向けた。
「ぱぱ!どうなったの!?」
「彼の時はなあ」
演技混じりの説明に目を輝かせる娘が話を聞き終わった瞬間。
「はい終わり、良く頑張ったねえ」

首領が娘の腕にガーゼを当てていた。


*****


「ぼしゅ?」
「何だい」
「なにしたの?」
「お注射しちゃった」
使用済みの注射器を首領が掲げる。
「いたくなかった」
「云ったろ、首領のは痛くねえって」
娘はキョトンとした後、嬉しそうに笑った。
「ぼしゅしゅごーい!!」

「俺達の首領は凄いだろ?」
「ぱぱのつぎにしゅごい!」


*****


「パパの次かあ」
「済みません…」
「良いんだよ、パパ格好良いものね」
「うん!ぼしゅ、またおはなしきかせてね!」
「判った、今度お茶会しようね」
娘の頭を撫でる首領に頭を下げ、抱っこをせがむ娘を抱えて部屋を後にした。

「なかなかったよ!」
「良く頑張ったな、偉いぞ」



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