壱頁完結物
「じぃじだっこ」
「おやお嬢、父君は如何したのかね」
幼子が指差す先には黒服の男と話す中也の姿。
「ぱぱよんでもこっちむいてくれない」
「おやおや」
拗ねて頬をプク、と膨らませる幼子を広津は丁重に抱き上げる。
「其の内気付く」
すると突然中也が辺りをキョロキョロと見回し始めた。
*****
部下との話に気を取られていた隙に娘が足元から消えた。
「何処行った…手前等見たか?」
しかし部下は皆して首を横に振るばかり。
「此処は安全な筈だが早く見つけねえとな」
冷静に振る舞ってみるが手は震え冷や汗が流れ出る。
「そんなに遠くに行ってねぇと良いが…」
*****
「広津さん!」
「おや中原殿、如何されました」
「娘を見なかったか」
「いえ、見ておりませんが…」
「…そうか」
広津さんの処に行ったと踏んでいたが違うか…。
「然し」
「?」
「よく似た幼子なら其処に」
指を差され首を捻る。
部屋の隅に膝を抱えて座る娘がいた。
*****
「なんだ居るじゃねぇか」
安堵の溜め息を吐ききって娘に近付くが俺の顔を見た瞬間プイとそっぽを向いてしまった。
「おいおい如何したんだよ」
「ぱぱはぱぱじゃないの」
「は?」
「ぱぱってよんでもおへんじしてくれないもん、ぱぱじゃないもん」
俺が思う以上に寂しい思いをさせたらしい。
*****
「悪かった。部下と話してて気付かなかったんだ」
そう云って謝ってみるが機嫌は直らない。
「ぱぱ、だいすきだったのになあ…」
しょんぼりと項垂れる娘に罪悪感が突き刺さる。
「もっかいだけ呼んでくれねえか」
「今度はちゃんと返事するから。な?」
*****
「…ぱぱ」
「此処に居るぞ」
「!」
「ほら、抱っこだ」
「ぱぱ!!」
一目散に俺の胸に飛び込んできた娘をしっかりと抱き締めると耳元で笑い声が聞こえてホッと胸を撫で下ろす。
「もう急にいなくなるなよ。心配しただろ」
「はあい」
「でもじぃじといたもん」
「偉いぞ」
*****
近くを通りかかった芥川と遊び始めた娘を見ながら広津さんに話し掛ける。
「娘ってなんであんなに可愛いんだろうな」
「自分の子は他の誰よりも愛おしく思うものですよ」
「そうか。んじゃ相談なんだが」
「何でしょう」
「嫁に行かせないためには何処まで根回しすれば良い」
「気が早いです」
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