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うらみちお兄さん 表田裏道


≪お兄さんと残業≫



収録が終わり、今日も精神がヘビロテしたVHSみたいに擦り切れそうなほど疲れているのだが

俺は一人で楽屋にいる。



『裏道くん、またボールに絵を描いてほしいんだよ~!明日使うから!じゃ、僕は帰るけどよろしくね!!』



そんなディレクターの言葉を思い出し、何の材質か分からないボールに虚無の表情を生やしていく。
彼女には残業の話を伝えてあるし心配することはないだろうが、願望を言えば一刻も早く帰って彼女に癒されたい。

手を動かさないと帰れないしさっさと終わらせてしまおうとボールに手を伸ばす直前、コンコン、と楽屋のドアがノックされた。
現在時刻23時前。
こんな時間まで他にも残っている人がいるのか?



「…はい」

「あっ、裏道さん」

「え」



疲れすぎて幻覚でも見ているのだろうか。
扉の前には彼女が大きな袋を持って佇んでいる。
説明を求めると楽屋に入れてほしいと言われ、確かに他のスタッフがいないとも限らないし素直に通した。



「あんまり遅いから様子を見に来たの」

「こんな夜中に…危ないだろ」

「裏道さんの精神状態に比べれば危なくないよ」

「…なんだって?」

「ごめんなさい…」



謝りながらも鞄の中身を机に出していく彼女。
そこには夕食の残りであろうタッパーが複数置かれていた。
温めて持って来たのだろう、フワリと良い匂いがする。



「お腹空いてるかなと思って。何か食べた?」

「…そういや食ってないな」

「やっぱり。ちょっと休憩しよ?」

「そうだな。ありがとう」



コップに注がれた温かいお茶を受け取ると、擦り切れていた心まで包まれる感覚がした。
冷めない内にタッパーの飯を頬張る俺の横で、彼女がボールとペンを手にする。



「そこまでしなくて良いって」

「良いの、やりたいだけだから」

「…そんなのやりたいか?」

「……鈍感」



本音を口にしただけなのに何故だか悪口を言われた。解せん。
しかし正直なところ、飯を食ってる間は手を動かせないから、代わりにやってくれるのはとてもありがたい。



「…ありがとな」

「早く帰って一緒に寝ようね」



ニコリと笑う彼女にようやく察した。
彼女も寂しかったのだと。
俺の帰りを待ち切れなかったのだと。

こんなにも俺を愛してくれる彼女に応える為にも、さっさと食べてさっさと仕事して帰ろう。
気合いを入れる意味も込め、真剣にボールに向かう彼女を振り向かせ唇を重ねた。
途端に真っ赤になる顔に癒されていく。



「ご馳走さま、俺もやるわ」

「……誰か来たらどうするの」

「こんな夜中に?」

「…むむむ」

「照れるなって」

「照れてないもん」



その瞬間、彼女の手からボールが滑り落ちた。
俺の方に転がってきたそれを掴むと、俺の描いた絵とほぼ同じ顔が描かれていて、一瞬目を疑った。



「これ、お前が描いたの?」

「そうだよ。裏道さんの絵を見ながら描いたの」

「えっ…」



ポテンシャル高っか…。



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