うらみちお兄さん 表田裏道
≪お兄さんとウインク≫
『今日もお兄さんと一緒に元気に遊ぼうね☆』
「うらみちお兄さんは今日も格好良いなあ」
酒を片手に録画したママンとトゥギャザーを見ていると、隣の彼女がほぼ条件反射でその台詞を口にする。
「本人の前で言うのやめて」
「裏道さんとうらみちお兄さんは別次元です」
「別次元って言うのもやめて」
教育番組をバックに力説する事じゃないし、しかもそれちょっと傷付くから。
やめて。
「あ、そう言えば聞きたかったんですけど」
「敬語」
「…ごめんなさい」
「で、何?」
「うらみちお兄さんってウインク得意だよね」
そう言われてよく見ると画面の中の俺は表情筋をフルに動かして見事なまでのウインクをお茶の間に晒している。
俺、あんな顔出来るんだな…。
「…ほぼ無意識だわ」
「今も出来るの?」
「別次元だから無理」
「うわ…根に持ってる…」
「そういうお前は出来るの?」
「え゛」
今、兎原みたいな反応したな。
「いやぁ、その…」
「お前がやるんなら俺もやる」
「え!ホント!?」
「だから先やって」
「うぐっ…」
打開策を考えているのだろうか。
やるかやらないかの二択にここまで悩むやつ初めて見た。
「……いきます」
「覚悟の決め方がすごい」
「ふっ…!」
彼女は渾身の力でウインクをし………ようとしたらしい。
明らかに両目瞑ってるし眉間にガチガチにシワが寄っている。
「………ふふっ」
「あっ、笑った!だからやりたくなかったのに!!」
「じゃあ出来ないって言や良いだろ、くくく…」
「だってやらないと裏道さんのウインク見れないし!」
「ホント、馬鹿正直だな」
「酷い!うらみちお兄さんは馬鹿なんて言わない!!」
「次元が混在してるぞ」
笑いが止まらずにいると「早くやって!」と急かされてしまった。
しかし今は完全に仕事用の表情筋がおやすみモードだ。
「やっぱやらない」
「えぇ!?恥まで晒したのに!!」
「俺は毎日お茶の間に恥を晒してるよ」
「…言い返せない」
「そこは『そんな事ないよ』って励ますとこだろうが」
「やだ~!やってやって~!!」
「子供か」
背中に覆い被さってくる彼女をひっぺがし、録画を一時停止する。
今日はバ…ジョキンダーの日か、いけてるお兄さんの真っ白い衣装がたなびいている。
俺はまだ出ていない。
「裏道さぁん!」
「…ったく」
「うぅ…」
「……ワガママばっかり言う子は、お仕置きだぞ」
語尾に合わせて片目を瞑ると意外といけた。
ていうか何だ今の台詞、ダサ。
熊谷の真顔が脳裏にチラチラする。
やめて。
反応がない彼女が心配になって様子を窺うと、顔を真っ赤にして両手で隠していた。
「…しゅき」
「え、今ので?」
「かっこいい…」
「……誰が?」
「三次元の裏道さん…」
「よくできました」
この反応が気に入った俺は職場でも何回かやり、その度に彼女が顔を隠すので
兎原が「裏道さんがメイクさんをいびっている」と誤認した。
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