うらみちお兄さん 表田裏道
≪お兄さんとテレビの中のお兄さん≫
『よいこのみんな~!こ~んに~ちは~!!』
「きゃ~!うらみちお兄さんこんにちは!」
「はい、こんにちは」
先に言っておく。
この場には俺と、その恋人の二人しか存在しない。
しかし、今三人の声がしたと思う。
それは…。
「うらみちお兄さんは今日も格好良いなあ」
「ねぇ」
「子供たちに向ける優しい眼差しとか」
「ちょっと」
「ポロシャツの袖に隠れた上腕二頭筋とか」
「あのさぁ」
「体操終わった後のちょっと乱れた髪とか」
「聞いてる?」
「ね、裏道さん!」
「………」
何故本人に同意を求めるのか。
というか、テレビの中の俺と目の前の俺は別人だとでも言いたいのだろうか。
そりゃ目に光があって瞳孔も開き切ってなくて爽やかな笑顔と爽やかな声を絞り出して子供のお手本になろうと頑張るうらみちお兄さんは格好よく映るだろうさ。
隣りで死んだ魚の様な目をして空虚な視線をテレビに送っている俺とは確かに違う人間かもしれない。
……自分で言っててとてつもなく悲しくなって来た。
「あっ…」
「………」
「アレです!あの!うらみちお兄さんは2.5次元だから!!」
「2.5次元」
「アイドルとか、そういう類だから!!」
「アイドル」
「その、彼氏である裏道さんとはまた違った魅力があるというか!」
「で?結局何が言いたいの?」
膝に頬杖をついて直視すると、彼女の顔が一瞬で赤くなった。
タコか何かだろうか。
テレビではいけてるお兄さんとうたのお姉さんが歌うのに合わせて虚空を見つめる俺が映っていたので消した。
「~~~っ、分かってるクセに…」
「お兄さん難しい事はわからないな~☆」
「ここでお兄さん要素出すのは反則ですよ!」
「敬語」
「…ふぁい」
ジリジリと近付くと同じ速度で逃げるが、残念ながらソファはそんなに長くない。
「それで?」
「あーもう!だから…その、うらみちお兄さんも好きだけど、一番好きなのは裏道さんだから!!」
「知ってる」
「え!?知ってるなら何で言わせたの!?」
「言わせたくなったから」
「なんでそんな意地悪するの!?」
「好きだから」
「意地悪が好きとか性悪だよ!」
「違くて」
「もー!じゃあ何!?」
暴れる彼女を無駄に鍛え抜いた(兎原談)腕で捕まえ動きを封じると、まだあーだこーだと叫び続ける口を思いっきり塞いだ。
「…お前が好きだから、って言ってんの」
「ぅゎ…すき…」
「語彙力どこ行った」
気を取り直してテレビを付け直すと、手を振る俺は半分ほど見切れていた。
彼女は楽しそうだった。
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