うらみちお兄さん 表田裏道
≪お兄さんと筋肉≫
風呂は好きだ。
一日の疲れと仕事の鬱憤がお湯に溶け出し、一日を生き切った達成感をこの時ばかりは得られる。
たまに職場に着いた時に起こる無敵モードに近い何かを感じながら、寝間着であるスウェットを着て部屋に戻った。
「あ、おかえり」
「ああ」
何故か画面が一時停止したママンとトゥギャザーの録画を見ていた彼女が俺の方に振り返る。
一時停止した画面の中の俺が微妙に変なポーズで止まっている。
何故そこで止めた。
「……何?」
「え、あっ…その、スウェットだなと思って」
「このスウェット着るの初めてじゃないじゃん」
「それは、そうなん………だけど」
今敬語が出そうになるのをめちゃくちゃ我慢したな。
この話が終わったら三歳児よろしく褒めてやろう。
「付き合うまではパジャマ着てるイメージだったから」
「まあ、教育テレビのお兄さんってそういうイメージ持たれるよね」
「ナイトキャップも被ってるものだと思ってた」
「それは池照君でも無いと思う」
ソファに腰を下ろしても彼女の視線がスウェットに刺さって自分の家なのに居心地が悪い。
原因を探ろうと彼女の視線の先を追うと、どうやら腹の辺りを見ている。
「腹が気になるの?」
「え!?」
「いや、ずっと見てるから」
別に減るもんじゃないし、とスウェットを捲り上げた瞬間、彼女が顔から火が出るのではと思う程に真っ赤になった。
しかし視線は依然として腹に釘付けだ。
ふと気になって一時停止された俺を見ると、子供に服を引っ張られ腹筋の割れた腹が全国放送されている。
「……もしかして」
「ち、違っ!断じて、あの…腹筋が好きとか、そんな事は…」
「墓穴掘ったな」
「あっ!!」
湯気の幻覚が見える真っ赤な顔を両手で隠し、小さく唸りながら俯いてしまった。
その姿に俺の嗜虐心がフツフツと沸いて来た。
「触ってみる?」
「えっ!?……いいの?」
「その代わり」
「?」
「俺もお前の事触るけど」
ソファに押し倒すと彼女の手を腹筋に持って行くが、本人はもうそれどころじゃないらしく、困惑の表情で俺の目をじっと見つめて来る。
そこで漸く俺は満足した。
自分の筋肉に嫉妬する日が来るなんて思ってもみなかった。
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