拝啓、旧友様
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其れから少し時間が経ち。
僕と太宰君が一緒に仕事をする機会が巡って来た。
「やあ安吾、久し振りだね」
「ご無沙汰してます、太宰君」
「先日は世話になったね」
「さて、何の事でしょう」
「またまた、ビュッフェで澄ちゃんを扶けてくれたじゃない」
「嗚呼。彼女、君に話してしまったのですか」
全く、口外しないよう伝えた筈なのですがね。
マフィアらしからぬ口の軽さは彼女らしいですが教育係には頑張って頂かなければ。
「凄く嬉しそうに『安吾さんとまたお友達になれたの!』って云っていたよ」
「其れは光栄ですね」
「可愛過ぎて昇天しかけたけど、私以外の話題であんな顔をされると一寸」
「嫉妬ですか」
「…私だって嫉妬位するさ」
口を尖らせ下を向く太宰君に溜め息が漏れる。
歴代最年少幹部と恐れられ、現在も探偵社の主軸として警戒されている様な男には見えない。
何処にでも居る只の青年だ。
四年前から彼女の話をする時の表情は変わらないな。
「君が想いを伝えないからそうやって平気で他の男の名前を出すんですよ」
「……え、其れ誰に聞いたの」
「澄さんですが。君の事もお友達だと云っていましたよ」
「どれだけアプローチしても全然意識してくれないのだよ」
「手は繋げるのに?」
「…私達が帰るの見ていたね?」
寧ろデヱトの最初から見ていたが云わないでおこう。
「最初は服の裾を摘まむ処から始まって、小指だけ掴んでくれたり」
「小さな子供みたいですね」
「根気強く誘っていたら漸く普通に手を繋げるようになったのだよ!次は恋人繋ぎだ。嗚呼、澄ちゃんと恋人繋ぎなんて夢の様だ!!」
僕の車の中にハアトを散らすのは止めていただきたい。
妄想の世界に入り込んだ太宰君を引き摺り戻すべく肩を数回揺すると、ガッカリした様子で現実に戻って来た。
「如何して素直に想いを伝えないのです」
「…怖いのだよ」
「君にも怖いものがあるのですか」
「失礼な」
「其れで?続きをどうぞ」
「澄ちゃんは繊細でね、細心の注意を払っていても未だに怖がらせてしまう事があるんだ」
「彼女は元来怖がりですからね」
「そう。だからもっと時間を掛けないと、彼女が本当に私を怖がらなくなるまで待たないと、想いを伝えた時にきっと遠くに行ってしまう」
「…有り得ない話ではないですね」
意外と真剣に考えているのだな、と云う言葉は胸の内に閉まっておく。
まあ、今までの女性達の様に彼女を扱おうものなら、織田作さんが化けて出るだろう。
何だかんだで彼も澄さんの事は可愛がっていたから。
「私は澄ちゃんの事になると臆病になるみたいだ」
「そのようですね。友人として、これからも応援していますよ」
「安吾…!」
「但し、僕は澄さんの友人でもあります。彼女を泣かせるような事があれば容赦しませんよ」
「任せてくれ給え。澄ちゃんは必ず私が幸せにしてみせるよ」
織田作さん。
貴方が此の場に居ないのが酷く寂しい。
先日も云ったように、どうか時々僕を手伝って下さい。
え?何処にツッコめば良いって?
今はツッコみは必要ありません。
我等が友人の恋路を応援するのですよ。
end.
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