拝啓、旧友様
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「安吾さん」
「澄さん…!」
フワリとスカートを揺らし、澄さんが近付いて来た。
しまった、見つかってしまった。
何か理由を付けて自分も退席しようかと考えたが、既に向かいに着席した彼女を無下にする訳にもいかない。
「安吾さんもケヱキ好きなの?」
「え、ええ。そうですね、頻繁ではありませんが食べますよ」
「そうなんだ。私、ケヱキ大好きなんだ」
「存じてますよ、昔からですもんね」
「憶えててくれたんだ!」
「君の事を忘れた事はありませんよ。処で、太宰君と一緒に居たのでは?」
「一寸席を外すね、って出て行っちゃった」
———女性達をへし折りに行ったか。
そう云う処はまだ黒の侭なのだなとしみじみしていると、何時の間にか澄さんが僕のカップに珈琲を入れて来てくれていた。
礼を云いカップを受け取ると自分が淹れた時より安らぐ香りがした様な気がした。
彼女はココアを手にしている。本当に甘い物が好きなのだ。
「先刻は有難う」
「…見られていましたか」
「最後の方だけ。聞いた事ある声がするなと思ったら、真逆安吾さんだったなんて」
「すみません、お目汚しでしたね」
「ううん、そんな事ないよ。其のお陰であの人達出て行ってくれたんだし」
困った様に歪めた口元に少しだけ大人を感じ、僕の口角もゆっくりと上昇する。
乾いた喉に珈琲を流し込んでから、再度彼女に話し掛けた。
「僕と話していて良いんですか?」
「如何して?」
「僕はマフィアの裏切り者ですよ」
「其れを云うなら太宰さんもだよ」
「…返す言葉が見つかりませんね」
秀逸な返しに降参すると、彼女はまた喋り出す。
「其れに、安吾さんには何時か会えたら良いなと思ってたから」
「何故です。友人の仇でも討つ心算ですか」
「仇?」
「…まだ織田作さんの事は知らないのですか」
「知ってるよ。太宰さんに教えて貰った」
「では…」
「私ね、話を聞いて最初はショックだった。正直まだ完全に理解した訳じゃないし。でも其の後の二人の話を聞いて、二人は矢張り織田作のお友達なんだって思ったんだ」
「太宰君は良いとして、如何して僕までそんな考えになるんです」
「太宰さんがマフィア以外でも生きられるように、手助けしてあげたんでしょ?」
其れも太宰君から聞いたのだろうか。
全く、余計な事まで喋ってくれたな。
「話を聞くまで、二人とも織田作の事を嫌いになって、私の知ってる二人じゃ無くなったのかなって思ってたけど、そんな事なかった。だから、安吾さんとまたお友達になりたいって思ったの」
「澄さん…」
「安吾さん、またお話してくれる?」
「其れは此方からお願いする事ですよ」
そう云うと、澄さんは嬉しそうな顔をしてココアを口に含んだ。
其れに昔の面影が見えて彼女は矢張り彼女なのだと実感する。
「そうだ、太宰君とは順調ですか?」
「そう、聞いて!私ね、太宰さんとね」
「云わなくても存じて…」
「お友達になったの!」
———……は?
「澄さん、今、お友達と云いましたか」
「うん。吃驚でしょ?安吾さんが居た頃は絶対ならないって思ってたのに」
「え、ええ…。そうですね…」
頭痛に苛まれ、僕は肘を付いた。
今までの行動全ての推察がガラガラと音を立てて崩れていく。
衝撃の展開に頭が付いて行かない。
「…彼とはよく出掛けるんですか?」
「うん、仲良くなってからよくこんな風にケヱキ食べに連れて行ってくれるんだ」
「そうですか…。お兄さんは心配していませんか」
「龍兄?龍兄は何も云わないけど、中也さんがよく駄目って云うの」
サラッと中也君の名前を出して来た。
此れも若しかしたら深く考えない方が良いかもしれない。
「何故中也君が?」
「判んない。俺の部下なら勝手な事するな、って何時も怒られるの」
———部下。つまり中也君は、上司。
「はあぁ……」
「え、如何したの!?一気に話し過ぎちゃったかな?」
「ええ…情報過多ですね…」
織田作さん。
先刻貴方に掛けた言葉を訂正します。
彼は未だに片想い中だそうです。
僕だけではツッコみが追い付きません。
偶にで良いので手伝いに来てください。
宜しくお願いします。
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