拝啓、旧友様
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「澄ちゃん、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
「でも…何だかあの人達、怒ってるみたいだった…」
折角盛りつけた皿には一切手を付けず、澄さんは下を向いてしまった。
誰だってあんな攻撃的な視線を受けて良い気持ちになる訳がない。
入店直後のテンションが嘘の様に口数が少ない彼女に、太宰君は優しい表情を取り戻し懸命に話し掛けている。
「彼女達の事は気にしないで…と云っても君は気にするだろうね」
「…御免なさい」
「怒っているんじゃない。事実を述べただけさ」
太宰君は澄さんの毛先だけが白い黒髪の横髪を一束掬い上げる。
其れに釣られて彼女の顔も少しずつ上がって来る。
愛おしそうに細められた瞳に彼女の視線が注がれる。
嗚呼、本当に相思相愛なのだと遠目からでも判る。
「あのね澄ちゃん」
「?」
「私は君と楽しい話がしたくて此処に来たんだ。折角なら笑って欲しいな」
「太宰さん…」
「君は私が必ず護るから」
ね?と微笑み掛け乍ら自分のフォークを澄さんの皿のケヱキに刺す。
口元に近付いて来た其れを条件反射の如く口に含んだ彼女は途端に眩しい程の笑顔を見せた。
良かった。此れで向こうは一安心か。
「うわ、あーんして貰ってるし」
「一寸落ち込めば甘やかしてくれるとか、子供扱いされてるの気付いて無い訳?」
「いい加減夢から醒めろっつーの」
先程から止まない耳障りな発言の数々に、他のテーブルからもザワザワと遠巻きに咎める声が聞こえる。
然し、誰も面と向かって注意する事はしない。日本人の悪い処だ。
当の本人達は自分達が場の品位を下げている事に気付いていない様だし。
「つか、今から声掛けに行かない?」
「良いね。あの子供置き去りにしてお持ち帰りコース」
「それ最高!」
ゲラゲラと下品に笑い始めた彼女達に、僕の堪忍袋の緒が切れた。
二人は声が聞こえていないのか楽しそうに談笑を始めている。
あの空気を汚す訳にはいかない。
偶に部下の笑えない失敗を耳にするとマグカップの取っ手を折ってしまうのだが、此処ではそんな事は出来ないのでゆっくりとソーサーにカップを置き、立ち上がる。
「失礼、お嬢さん方」
「は?アンタ誰?」
「貴女達の後ろの席に座っていた者です」
「アタシ等に何か用?」
「ええ、其の不愉快極まりない言葉を吐く口を黙らせようと思いまして」
彼女達が持つカップの中身が小刻みに揺れている。
真逆そんな言葉を掛けられると思っていなかった顔だ。
周りの客達は僕等のやり取りを固唾を飲んで見守っているが、見世物では無いのでご遠慮願いたい。
「此処への入店に年齢制限はありませんし、誰が誰と来ようと問題ない筈ですが」
「否、まあ…」
「其れに、身なりは大人かもしれませんが、中身は貴女達の方が子供ではありませんか」
「は!?失礼な事云わないでよ!」
「失礼?何を仰る。場を弁えず自分達の脳内をぶちまけている時点で子供ですよ」
「………」
「何を黙っていらっしゃるのです。反論は幾らでも受け付けますよ」
「う、うっさい!もう行こ!!」
「うん…」
女性達は鞄を引っ下げ、足早に出て行った。
安堵からか眩暈に襲われ自分の席に着席すると、深く息を吸う。
乾いた喉を潤そうとカップを傾けるが中身が空になっている事に気付いた。
もう一杯貰うべくセルフの珈琲メーカーの場所を確認していると、後ろから足音が聞こえた。
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