拝啓、旧友様
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「わぁ!見た目も綺麗だし美味しそう!!」
「ふふ、君の其の顔が見れて嬉しいよ」
僕は離れた席で珈琲を飲んで懺悔していた。
二人は純粋にビュッフェを楽しみに来ただけなのに、自分は邪な妄想を抱きデヱトの邪魔をしようとしたのだから。
そうだ、二人は純粋なのだ。落ち着け僕。
———と云うか、僕は何故入店したんだ。
仕事以外では来ないキラキラした空間が肌に刺さる。
周りも普段より一つ背伸びした服装をした人達ばかり。
帰れば良かったと後悔の念が押し寄せて来る。
「此れも美味しそう!」
「時間は沢山あるんだから、ゆっくり選んでね」
「うん!太宰さんはどれにするの?」
「え、結構取ってると思うけど?」
「そう?」
「君を基準にすれば少ないかもしれないね」
「何で笑うの…」
「違う違う、可愛いと思っただけさ」
談笑する二人が微笑ましい。
其れと同時に、バーで彼女と仲良くなりたいとボヤいていた彼の面影が薄れてしまいそうで少し寂しさを憶える。
織田作さん、見ていますか。
貴方が再三云い続けた事が現実になっていますよ。
其れ処かもう一つ先のステージに行っている。
こんなに嬉しい事は無いです。
貴方にも是非見て欲しかった。
口角を上げる僕の後ろでまたヒソヒソと小声が聞こえて来た。
一人で笑うのがそんなに可笑しいですか、すみませんね。
と思ったが、如何やら僕の事を云っている訳では無さそうだ。
手鏡で後ろを確認すると、女性が二人、太宰君達の方を向いて何か囁いている。
「彼、格好良いわね」
「本当、イケメンね」
嗚呼、太宰君の容姿を褒めているだけか。
何て事ない、日常の囁きだ。
すっかり忘れていたが僕は四徹している。
多少の事に敏感になり過ぎているのかもしれない。
「隣の子誰?」
「彼女?でも明らか子供よね」
「あの子も彼を狙ってるとか?」
「えぇ?無理あるでしょ」
———……何も判って居ない一般人風情が。
つい心の中でそんな悪態を吐いてしまった。
太宰君の隣が見ず知らずの女性なら彼女達の疑問にも同感するが、現状は違う。
彼が必死にアプローチして、漸く隣に立てる様になったのだ。
其れを、澄さんが色目を使っている?
有り得ない、裏社会に生きながらあそこまで純粋な女の子は居ないと云うのに。
「一寸背伸びに無理があるって云うか」
「必死過ぎてダサいよね」
沸々と怒りが込み上げるのを開放するか抑え付けるか考えて居ると、女性達の視線に気付いた澄さんが小さく悲鳴を上げて太宰君の後ろに隠れてしまった。
純粋とは云え流石はマフィア。視線が誰に注がれて居る物かは直ぐに理解出来るらしい。
其れと、どれだけ驚いても皿をひっくり返さなくなったのは、現教育係の訓練の賜物だろう。
僕の時は太宰君と鉢合わせる度に持って居る物を全て落とし、其の内織田作さんが“天衣無縫”で事前に察知して皿を置くよう指示するようになっていたから。
「如何したんだい澄ちゃん」
「…一回席に戻ろ」
「判った、戻ろう」
澄さんの視線を太宰君が追い、其処でバチリと女性達と目が合った。
途端に黄色い声を上げる二人に向かって、太宰君は余所行きの笑顔を一瞬向け、未だ表情の暗い澄の背を押し、彼女のペースに合わせて席へと戻って行く。
声は優しく彼女を気遣うが、其の表情は恐ろしく死んでいた。
却説、太宰君。
マフィアでなくなった君は恋人の危機に如何対応するのかな。
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