拝啓、旧友様
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「ねぇ太宰さん、今日は何処に行くの?」
「秘密。着いてからのお楽しみだよ」
手を繋いだ二人は休日の喧騒の中をゆったりと進む。
澄さんは行く先が気になって仕方無いのか、頻りに繋いだ手を振っては太宰君に目的地を催促し、そんな彼女が愛おしいのだろう太宰君は、締まりの無い顔で催促を受け流している。
彼等は休日を謳歌するただのカップルと何ら変わりなかった。
二人を眺める内に、僕の中に父性の様な何かが芽生えるのを感じた。
然し、あまり一か所から覗いていると周りから変な目で見られる。
今も若者が後ろで何かを囁いている。移動しなければ。
「そうだ、今日もちゃんと中也には内緒にしてきたかい?」
「うん!今日は出張で帰って来ないから大丈夫だよ」
「そっか、じゃあゆっくり出来そうだ」
———………中也君?
如何云う事だ。
僕は幻聴でも聞いたのだろうか。
中也君に?内緒にして来た?
会話が脳内を駆け巡り、おぞましい絵面が組み上がって行くのを感じる。
信じたく無いが、真逆彼女…。
———二股!?
しかも相手が現マフィア幹部と来た。
確かに中也君とは昔から仲良くしていたし、そう云う仲になっても可笑しくは無いが…。
見つかるのも時間の問題だろうが、太宰君が如何にかしているのだろうか。
発覚すれば間違いなく追放…否、其れ処では済まないだろう。
然し、彼女が二股なんて出来る程立ち回りの良い人間とは思えない。
そう云い聞かせるのに心臓が暴れて冷静になれない。
「子供の成長とは…恐ろしいものだ」
眩暈がしフラフラする足を必死に動かし、二人を再び追う。
今度は買い物客らしきご婦人達の小声が聞こえるが、もう気にしない事にした。
そうこうする内に、二人はある建物の前で足を止めた。
「此処…」
「驚いたかい?」
「ほ、本当に入って良いの…?」
「勿論」
暫くして、二人はヨコハマでも有数の高級ホテルに到着した。
僕の不安が増幅されるのは何故だろう。
否、そもそも太宰君はマフィアに居た頃よりも薄給になっている筈(失礼な話だが)。
こんな高級ホテルの一室の料金をポンと出せる様な貯金は持ち合わせていないだろう。
其れとも、まだマフィア時代の金を懐に忍ばせているとでも云うのだろうか。
「だって此処…」
「ずっと行きたいって云っていただろう?」
「…!うん、有難う太宰さん!」
嗚呼、失念していた。
彼は彼女の為なら何だってする男だった。
愛する人の笑顔を見たくて、身を削ったのだろう。
此れから一室でゆっくり…。
否、待て。彼女は確かまだ十五歳の筈。
幾ら愛し合っているとしても、超えてはいけない一線という物は存在する。
今なら止めに入れる。
旧友の過ちを正してやるのが友と云う物だろう。
「待っ…」
「楽しみだね!スイーツビュッフェ!!」
「はしゃぎ過ぎて転けないようにね」
「転けないよ、失礼な!」
———……ビュッフェ?
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