拝啓、旧友様
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拝啓、織田作さん。
ご無沙汰しております、坂口安吾です。
現在、四日徹夜して仕事を終わらせ帰宅途中。
四日振りに見る日差しが目に染みるのに耐え乍ら、フラフラとヨコハマの街を進んでおります。
そんな僕と、彼らの話を少しだけさせてください。
世間は週末。私服に身を包み休日を謳歌する人々が僕の隣を通り抜ける。
楽しそうな笑い声にポートマフィアで友人達と笑い合った記憶がフワリと思い返され、口角が歪に歪んだ。
通り掛かった公園で足を休めようとベンチを探していると、見覚えのある人物が視界に入った。
「彼女は…澄さん?」
黒外套の禍狗、芥川龍之介の末の妹、芥川澄。
ポートマフィアに居た頃は、貧民街上がりで何の知識も無かった彼女の教育係をしていた事もあった。
当時は病的に華奢で“子供”だった彼女は今、兄に似た独特の髪も綺麗に整え、清楚な服装がとても似合っている。
子供の成長とは早いものだ。四年であれ程までに大人びるとは。
一歩踏み出し掛けようとした声は、別の声に遮られた。
「やあ。御免ね、待たせたかな?」
「ううん、私も先刻来たの」
「本当?其れなら良かった」
———………太宰君?
彼女の目の前に現れた人物を、一瞬疲れによる幻覚かと思った。
僕の記憶では彼は澄さんに酷く拒絶されていた筈。
確か、教育とは云え自分の兄に厳しく当たり常に怪我をさせている怖い人間だと認知されていたからだ。
其れが…待ち合わせ?
しかもお互い小洒落た私服を身に纏っている。
若しや此れは…。
「デヱト…?」
楽しそうに話す二人につい魅入ってしまい、同時に昔を思い出す。
『如何したら澄ちゃんと仲良くなれるんだろう…』
『また其の話ですか』
『太宰が弱音を吐くとは』
『だって、君だって知っているだろう織田作!あの異常なまでの逃げ回りっぷり!!』
『まあな。俺からも仲良くしたら如何だとは云っているんだが』
『彼女、兄姉を大事にしていますから。君が芥川君の教育係である限りは無理かもしれませんね』
『其れ、一生澄ちゃんと喋れないって云ってる様な物だよね…』
『頑張れ』
『でも、君が個人に其処まで執着するのは珍しいですね。恋でもしているんですか?』
『……え?』
『え?』
『ん?』
当時から太宰君の恋心を知っていた身としては、想いが実りこうして逢瀬の機会を得ている事が素直に嬉しい。
僕は茂みに身を隠し、二人のやり取りを見守る事にした。
「却説、行こうか。手を繋いでも良いかい?」
「今日も?太宰さん最近毎回だね」
「厭なら無理強いはしないよ」
「太宰さん泣いちゃうから繋いであげる」
「うふふ、有難う澄ちゃん」
手を繋いで公園を出て行く二人を目で追う。
澄さんの発言が少々引っ掛かるが、太宰君が滅多に見せない素の笑顔を惜しげも無く晒しているのを見ると自分まで穏やかな気分になる。
僕は無意識にポケットのエナジードリンクを飲み干し、二人の後を追っていた。
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