コッペリア
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大量の液体が揺れ動き、時折更に液体の注がれる音が響く。
其の空間の中には二人の人影があった。
「朝のお風呂は気持ちいいねえ」
一人は体中に包帯を巻いた蓬髪の青年。
「寒くないかい?肩までちゃんと漬かるんだよ」
「はい、首領」
もう一人は少女だった。
毛先だけが白い長い黒髪を頭の頂点で纏め、肌は中の骨格が透けて見えるのではと思わせる程に白い。
微笑む青年とは正反対の無表情で、彼女は青年の向かい側で云われた通り肩を湯船に浸した。
「うふふ、澄ちゃんは良い子だね」
人工の光が浴室を照らし、首領と呼ばれた青年———ポートマフィアの首領、太宰治はゆっくりと少女の頭を撫でた。
少女の名は芥川澄。四年半前、銀と共にポートマフィアに人質として捕えられた芥川家の末の妹である。
暫くのんびりと湯船に浸かっていた太宰は、不意に湯船に凭れていた体を起こし手を二回パンパンと鳴らした。
「銀ちゃん、澄ちゃんをお願い」
「はい只今」
直ぐに女性の声がし、浴室に澄の姉である銀が姿を現した。
姉の姿を確認した妹は太宰に何も遠慮せず、一糸纏わぬ姿で湯船から立ち上がる。
余分な脂肪も筋肉も無い少し不健康そうな裸体を眼前に、太宰は満足そうに目を細めた。
其の身体は此の四年半、身の回りの事は全て太宰自身が世話をし、時間を掛けて逃げる為に必要な肉を削ぎ落とした結果だった。
彼女は今、自分で立って歩くのも数分と持たない。
「さ、風邪を引かない内に」
「はい、首領」
澄は恥ずかしがる様子もなく湯船を出て、姉の持つバスタオルに包まれ浴室を後にする。
「銀ちゃん」
「何でしょう」
「判って居ると思うけれど、服は私が選ぶからバスローブを着せておいてね」
「畏まりました」
銀は恭しくお辞儀をして浴室の扉を閉める。
浴室に一人になった太宰は天井に向かってゆっくりと細く息を吐いた。
「今日はどんな服を着せようかなぁ」
太宰自身も湯船から上がりバスローブを身に纏うと澄の待つ部屋へと歩みを進める。
部屋の扉を開けると先刻まで眠っていた寝台の中央にバスローブ姿でペタンと座る澄が太宰を見つめていた。
太宰が両手を広げるとゆっくりと立ち上がり、その腕の中へスッポリと納まる。
「お待たせ澄ちゃん。服を着せてあげようね」
「はい、首領」
腕の中で静かに返事をする彼女の頭に口付けをしてから、太宰はクローゼットへと向かった。
壁一面に設えたクローゼットには所狭しと洋服や小物類がさながら店のディスプレイの様に飾られている。
「今日は淡桃色で纏めてみようか。絶対に可愛いよ」
「首領が、いうなら」
カチャカチャとハンガーを鳴らし目当ての服を探す太宰の後ろで澄は何の躊躇もなくバスローブを脱ぎ、また一糸纏わぬ姿を晒す。
一対の下着を手にして振り返った太宰は嬉しそうにニコリと微笑んだ。
「澄ちゃんは本当に良い子だ。さあ、足を上げて」
下着を着けて貰い、服を着せて貰う。
布の擦れる音だけが部屋に響くが二人は何も喋らない。
髪飾りを着けるために膝まである髪を梳かして貰う澄の姿はまるで着せ替え人形。
「今日も素敵だよ、澄ちゃん」
爪先から頭の先まで淡桃色に包まれた澄を恍惚と見つめる太宰は、其の人形に恋をしているかの様だった。
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