書類係の誘拐
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「龍兄…御免なさい」
「何故お前が謝る」
中也の車の中、太宰の外套に身を包んだ儘の澄は芥川に向かって頭を下げた。
隣に座る銀が背中を摩って落ち着かせようとするが、澄の眼からはボロボロと涙が溢れる。
「龍兄からの贈呈品、ボロボロにしちゃった…」
「お前が自分でやった訳ではあるまい」
「でも、でも…折角龍兄がくれたのに…大事にしようと思ってたのに…」
「澄…」
贈呈品を開けた時の澄の喜び様を間近で見ていた兄姉二人は眉を下げる。
其れと同時に、自分が選んだ贈呈品を妹が大事にしてくれていた事が素直に嬉しかった。
「服はまた購い直せば良い」
「でも…」
「お前の服を購う位の資金は蓄えてある」
「私、またボロボロに…」
「其れなら暫くは僕が共に行動する」
「澄、そんなに悲しい顔をしないで」
背中を摩っていた銀が澄を抱き締める。
「私も兄様も、澄が無事でいてくれた事の方が嬉しい」
「銀姉…」
「だからもう一度購いに行きましょう」
優しい顔の姉を見上げ、兄に視線を移すと同じ顔をしている。
兄が控え目に頭を撫でてくれるのが嬉しくて、澄はやっと笑みを零した。
「本当に良かったねぇ、私が先に到着していて」
「手前…澄が誘拐された事を何処で知った」
運転席と助手席で双黒二人が話を始める。
「偶々中也が道路の真ん中で堂々と路駐しているのを見掛けてね。そしたら澄ちゃんが攫われた、なんて聞こえてきたものだから」
「…電話してたのは車の中だぞ。どんな地獄耳だよ」
「口の動きで大体判るさ」
得意顔の太宰に中也が舌打ちをかます。
バックミラーで後ろを見ると三人が仲良く寄り添っているのが見えて、太宰は満足気に目を細めた。
「でも太宰さん、私の居る処よく判ったね」
「私は探偵社員だよ。人探し位朝飯前さ」
「そっかぁ」
「もう少し早く着ければ良かったのだけど」
「ううん、助けに来てくれて有難う。あの時の太宰さん王子様みたいだった」
「おっ…王子!?」
屈託無く笑う意中の人に心拍数が上がっていく。
元相棒のあまりの取り乱し様に中也が鼻で笑うのも聞こえていないようだ。
「…ふふ、姫のお迎えの準備は何時でも出来てるよ」
「姫?」
「清楚な下着も似合うけど、お迎えする時は少し背伸びしても可愛いかもね」
「……へ?」
澄の顔がみるみる内に真っ赤になって行く。
当の本人は口を滑らせた事に気付き慌てて口を塞いだが後の祭り。
「太宰さん…」
「ち、違うんだ芥川君。あくまで事故だから…見えてしまったものは仕方無いじゃないか」
「妹を辱めるなら、太宰さんとて許しませぬ」
「おいおいやるなら車の外でやれ」
一触即発の空気に自分の車を案じ中也が口を挟む。
「…やっぱり太宰さん怖い」
「御免って澄ちゃん!許して!!」
「此方見ないで、エッチ」
「!!」
プイとそっぽを向かれ太宰は何とか機嫌を直そうと奮闘する。
「どうせ色気なんて無いもん」
「そんな事を云ってるんじゃないんだよ!?」
「男に間違われる位だもん、判ってるもん」
「違うんだよ澄ちゃん!」
そのやり取りは太宰を探偵社前で降ろすまで続き、事情を聞いた鏡花が小刀片手に太宰を追い回したのはまた別のお話。
.
5/5ページ