書類係の誘拐
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「こんな下品な輩に澄ちゃんを触られるなんて、私も嫌だよ」
そんな声が正面から聞こえたと思ったら、急に澄の目の前が真っ暗になった。
何が起こったのか判らず慌てて身を捩ると如何やら布が被せられていた事が分かった。
「……太宰さん?」
「直ぐに枷も外してあげるね、待ってて」
目の前には何時もの調子で佇む太宰が男を蹴り飛ばした処だった。
突然の出来事に男達も対処し切れないのか成すが儘に床に突っ伏す。
「如何して…?」
「君のピンチに駆け付けられない程男は廃っていないさ」
体にしっかりを掛け直された其れをよく見ると、太宰の外套だった。
カチャカチャと音がして、気付けば全ての枷が外される。
「全く君の上司は頼りないねえ。部下の居場所一つ見つけられないのだから」
やれやれ、と溜め息を吐き乍ら太宰は澄をゆっくりとあやすように抱き締めた。
外套越しに温かい体温を感じ、安心したのか堰を切った様に泣きじゃくる。
「怖かったね、もう大丈夫だよ」
ポンポンと背中を叩くと擦り寄って来る澄に太宰の顔が緩む。
ふと、後ろで金属音がした。
振り返ると突っ伏していた筈の男達が其の辺に転がっていた鉄パイプを引き摺って二人に向かって来る処だった。
「貴様ぁ…よくもコケにしてくれたなぁ…」
「痛い目に遭いたくないなら、女を寄越せ…」
「嫌だね。君達に渡す位なら頼りなくてチビな上司に任せてる方がマシだ」
「…誰が頼りなくてチビだって?なぁ?」
「?……だぁ!?」
「あ、兄貴…ぐあぁ!!?」
男達の肩に誰かの手が乗った瞬間、殴られた訳でも蹴り飛ばされた訳でも無いのに二人は地面に縫い付けられる様に再度突っ伏した。
「好き勝手云ってんじゃねえぞ太宰」
「やっと来た。遅いよ中也」
「ち、中也さ…」
「ったく、面倒事に巻き込まれやがって」
足で男達を小突き、帽子の位置を直し乍ら悪態を吐いたのは中也だった。
其の後ろからドタバタと複数の足音が近付いて来る。
「澄!!」
「っ銀姉…!」
「無事か、澄」
「龍兄…!!」
芥川が黒蜥蜴を従えて雪崩れ込んできたのだ。
太宰に支えられている妹を見てホッと胸を撫で下ろす。
「ぁ、あにき…アレが本物の芥川龍之介ですぜ…」
「へっ…向こうからお出ましとは、手間が省けたぜ…」
未だに重力に潰されているにも拘わらず男達は状況が判って居ないのか不敵に笑い始めた。
其れを見た全員が呆れて天井を見上げる。
「僕に何か」
「貴様を探してたんだよ…以前俺のグループを潰した貴様をなぁ…」
「間違えて妹を捕まえちまったが、本人が来たなら此方のモンだぜぇ…」
「貴様等、僕と間違えて妹を拐かしたと云うのか」
芥川の後ろから黒獣が顔を出す。
「中也さん、此奴等は僕が始末します」
「おう、任せた」
「澄ちゃん、私達も出ていよう」
「でも、龍兄が」
「芥川君が彼等に引けを取ると思うかい?」
不安そうな顔をする澄に黒獣が寄って来た。
頬を擦り合わせ「僕は大丈夫だ」と云っている様にも見える。
「…思わない」
「じゃあ行こう」
太宰は澄を姫抱きにし其の場を後にした。
「妹を辱めた事、彼の世で後悔するが良い」
打ちっ放しのコンクリートが、赤に染まった。
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