壱頁完結物
「何してんだ、手前は戦闘員じゃねえだろうが」
「中也」
彼女が赤い水溜まりの中央で突っ立っていた。
手には護身用のナイフが一本、赤い滴が滴っている。
「忘れ物を届けに来たんだけど」
「忘れ物?」
「貴方のトレードマーク」
ナイフと反対の手には帽子がビニールに包まれていた。
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「そういや何か頭が軽いと思った」
「莫迦ね、寝坊するからよ」
「煩ぇ」
ふと影が動いた気がして俺は彼女を引き寄せた。
勘は当たり、黒服の男が直ぐ地面に転がった。
「あら、格好いい」
「茶化してる場合か」
「私も気付いてたのに」
「だからって戦闘員じゃねえ手前に獲物は振らせねえよ」
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「其れ以上殺したら戦闘員にされんぞ」
「素敵ね」
「莫迦云え、俺が厭なんだよ」
俺はビニールから帽子を出して定位置に収める。
「愛する女の手が血に染まるのは見たくねえ。大人しく護られてろ」
「仕方無いわね」
そう云って抱き締めれば漸く諦め、ナイフを定位置に戻した。
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