壱頁完結物


背が低いのを太宰に揶揄われていた時は只々腹が立っていた。
其れは俺のみに向けられた言葉だったからだ。
「幹部殿」
とある招宴に呼ばれた時の事、後ろから呼ばれ振り返ると小肥りの男が酒を片手に近付いて来た。
「おう、手前か」
「御無沙汰しております」
恭しく頭を垂れる其の顔はニヤついている。


*****


「今日も奥様は素敵で御座いますね。背がスラッと高くて」
「良い女だろ。やらねえがな」
「滅相も御座いません!然し…」
ニヤついた笑みを俺の全身に向けられる。
気持ち悪い。
「奥方の背の高さは幹部殿はどうお思いで?」

本来嫁は俺と大して背は変わらない。
高いヒールを好むから高く見えるだけだ。


*****


「手前が何を云いてえのかは何となく判る。だがな」
俺が近くに居るのに気付いた嫁が笑顔を向けて来た。
同じ様に返すと笑みを深めゆっくりと近付いて来る。
「俺は彼奴に選ばれ、堂々と隣に立てる唯一の男だ。其れを見た目で恥じる気はサラサラねぇよ」

歯を食い縛る男の目の前で嫁が腕を絡めて来た。


*****


「あら、ごきげんよう」
「あ、嗚呼…ごきげんよう御婦人」
嫁がニコリと笑うと先刻までの饒舌が急にドモり出した。
嫁は特に気にする様子もなく俺の腕を引き耳元に口を寄せる。
「首領が呼んでるわ」
「そうか。悪いが失礼するぜ」

顔を真っ赤にする男を置き去りに、俺達は喧騒を掻き分け招宴会場を後にした。



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