中原夫妻は思案していた。
中也は真剣に、八雲は面白半分に。
「矢張りJKよ」
「何が悲しくて成人男性がJKの格好しなきゃいけねえんだよ」
「じゃあチャイナドレスは？」
「男の生足見て楽しいか？」
「そんな事云ってたら何れも着れないわ」
「着たくねえんだよ！」
騒ぐ中也に閉口する八雲。


*****


「つか、手前は何着るんだよ」
「如何しようかしら。でも女が男装した処で面白み無いじゃない？」
「面白みは求めてねえんだよ！」
「我儘なんだから」
態とらしい溜め息に血管が浮き出るが八雲はお構い無し。
「じゃあ折角だしセット衣装にしましょ！」
「セット衣装？」
「例えば警官と囚人、とかね」


*****


「囚人ならまだマシだろ」
「何云ってるの？貴方は警官の方よ、ホラ」
差し出されたミニスカポリスの衣装に中也の口端が引きつる。
「他ねえのか…」
「あら、白衣があるじゃない！一度着てみたかったのよ！はい、貴方はこれね！」
「お、おい！勝手に…」
八雲はサッサと更衣室に入っていった。


*****


「…マジか」
渋々更衣室に入り渋々服を広げた中也はこの世の終わりの様な顔をした。
ミニスカワンピースのナース服までは予想していた。然し
「何で此処穴開いてんだよ…」
胸元に開いたハート型の穴に歯軋りを立てる。
「中也？着替え終わったの？」
「…クソが！！」
中也は考えるのを辞めた。


*****


「「せーの！」」
掛け声と同時にカーテンが開いた。
「中也可愛い！よく似合ってるわ！」
楽しそうに笑う八雲に中也がキレた。
「…手前白衣着ただけじゃねえか！！」
「二人ともが異性の格好をするなんて何処にも書いてないじゃない」
「…っざけんな！尚更手前がやりゃ良かったじゃねえか！」


*****


「あら、しかも其れ一寸エッチな衣装だわ」
「何だって嫁の前でこんな格好しなきゃならねえんだ…」
頭を抱えた中也は手が伸びて来るのを反射的に振り払ってしまった。
「触んじゃねえ！…あ、」
「ぁ…ご、御免なさい」
予想外の行動に八雲は慌て始めた。
「そ、そうね…一寸巫山戯過ぎたわ…」


*****


「ほ、ほら！着替え直して行きましょ！」
明るく振る舞おうとする声は震えていた。
「八雲」
足早に進もうとする腕を掴み振り向かせる。
「んな事で泣くんじゃねえよ莫迦」
「だってぇ…」
「泣く位なら悪戯は程々にしとけ」
「ほんとに、御免なさい…」
「判った判った、許してやっから」
「…本当？」


*****


「どんだけの付き合いだと思ってんだ。今更手前の悪戯程度で愛想尽かすかよ」
「…そうやって甘やかすから止められないの」
「否、自制しろよ」
堪えきれずに中也が噴き出すと八雲は漸く同じ様に笑った。
「有難う中也、愛してるわ」
「嗚呼俺もだ。愛してる」
其の時、扉の開く音がした。


*****


「…うわぁ」
「第一声から強気だなオイ」
ｶｼｬｧ
「何撮ってんだ樋口！消せ！！」
「あらあら、勢揃いね」
目尻の雫を拭った八雲は芥川へと近付く。
「見てみて、中也とセットなのよ！」
「一度やってみたいと仰っていました故、念願叶って何よりです」
「ふふ、彼には内緒よ！」
「御意」



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