壱頁完結物


「浴衣をはだけるな!」
「何でよ、暑いんだから仕方無いでしょ?」
浴衣の袷から谷間が見えている嫁を叱るが何処吹く風。
此彼には危機感ってモンがねぇ。
ふと前から歩いて来た立原が驚いて寄って来た。

手前も云ってやれ、だらしねぇしはしたねぇってな!


*****


「中原の姐さん!」
「あら立原、如何したの」
「やっぱ姐さんの浴衣、色っぽいスね!」
おい待て、待て。
何口説いてんだ巫山戯んな。
「有難う立原。此の柄似合うかしら?」
「勿論スよ!姐さんは何着ても似合いますって!」
ふと嫁が目線を此方に向けたのが見えた。

褒めて欲しかったのか…?


*****


「ふふふ、良い子な立原にはお姉さんが珈琲牛乳をご馳走するわ」
「マジすか!?あざっす!」
目を輝かせる立原が漸く俺に気付いたらしい。
サァと血の気が引くのが見える。
「あ、や…あの」
「手前…」
「一寸中也、怒りたいのは私よ」

「酷いじゃない、部下に先を越されるなんて」


*****


「何の話スか?」
「折角久し振りに浴衣を着たのに、着方がだらしないだの胸が開き過ぎだの文句しか云わないのよ?其の分貴方は素直で嬉しいわ」
立原の頭をワシャワシャと撫でる嫁にやっちまったと頭を抱えた。

「夫婦のパワーバランスが見えた気がします」
「覚えておいてね」


*****


全くもって不本意だが、部屋に戻った俺は嫁に頭を下げた。
此彼が何着ても似合うのが日常で褒めてやらなかったのは確かに悪かったと思ってる。
然し…
「他人の目が在る処で肌を見せるのは控えてくれ、心配すんだろ?」
すると嫁は顔を真っ赤にした。

「其処まで云うなら…仕方無いわね」


*****


其の後何故か機嫌が治った嫁は俺にベッタリ。
「如何したんだよ」
「此れでもう心配ないでしょ?」
「まぁそうだが」
「褒められるのも嬉しいけど、心配されるのも悪くないわね!」
「…おい、頼むから業と心配させる様な事は…」
「あら梶井、卓球やりましょ!」

「人の話を聞け手前は!!」



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