短編
「手前、また顔に傷作りやがって」
血の垂れた頬を手袋でゴシゴシと擦られる。痛い。
「怪我したんですか、手当てしますか?」
其処に芥川君がやって来たのでお願いしようと中也に背を向けると渾身の力で襟首を掴まれた。
「俺の女に触んじゃねェよ!!」
「中也、其れ初耳」
「え、あっ!!」
*****
「手前、いい加減にしろよ」
「生傷なんて日常茶飯事じゃない。如何してそんなに怒ってるの」
何時に無くご機嫌斜めの中也に溜め息を吐くと端正な顔がグシャリと歪む。
「顔に傷作んの止めろって云ってんだ!…手前は女だろうが」
そう云って救急箱を出してくれる辺り彼は優しい人なんだ。
*****
窓から入る日が眩しくて身を捩ると、何かが頭に乗り、髪をグシャグシャにされた。
フワリと珈琲の薫りが漂う。
「お早う、やっと起きたのかよ」
「…珈琲の匂いがする」
「手前も呑むか?」
立ち上がろうとする中也の腕を掴んで布団に引きずり込んだ。
「二度寝共犯して」
「首領に怒られんぞ」
*****
「おい、珈琲入れてくれ」
「今一寸忙しいの」
「一寸位佳いだろうが」
此れから外で仕事らしいが、私が走り回ってるのは見て解る筈なのだ。
だが不機嫌そうな中也に観念して仕方なく煎れる事になり、憂さ晴らしに彼を一瞥して一言。
「二度目はなくってよ!」
瞬間凄い形相で追い掛けて来た。
*****
「珍しい…」
普段寝ている処など殆ど見ない中也がソファで居眠りをいている。
余程疲れが溜まって居るのか、隣に座っても揺すっても起きる気配が無い。
「仕方ないわね」
私も珍しく膝枕なんてサービスしちゃったり。
「…は?て、手前…如何いう状態だこりゃあ!?」
「あら、起きた?」
*****
「芥川、聞こえてるんでしょ」
「…」
中也とのお茶から帰って早々、芥川に後ろから抱き付かれ、肩口に顔を押し付けられる。
何が遭ったのか聞きたいが本人は口を開かない。
首筋を撫でる髪が擽ったくて限界なのだが
「僕とも…茶を呑んで下さい」
思い掛け無い言葉に擽ったさ等忘れた。
*****
「で、茶から帰って来て此処でも茶呑んでんのかよ」
樋口に用意して貰ったお茶に口を付けると中也が依って来た。
「芥川が可愛くてつい」
「強請られちゃ仕方ねぇな」
そう云うと苦笑を洩らして去ろうとする中也は一度足を止め振り向いた。
「…樋口の目が血走ってるぞ。如何にかしてやれ」
*****
「中也寝た?」
「爆睡だ」
「起きてるじゃない」
「…何の用だよ」
こんな夜中に部屋に入ってくんじゃねぇよ。
「何か最近悪夢が続いてて」
無防備に潜り込んで来んじゃねぇよ。
「はぁー温かい。中也大好き」
期待させるような事云うんじゃねぇよ。
俺だって、男なんだぞ。
実は確信犯。
*****
「中也寝た?」
「爆睡だ」
「起きてるじゃない」
「…何の用だよ」
こんな夜中に部屋に入れてくれるなんて。
「何か最近悪夢が続いてて」
勝手に潜り込んでも怒らないなんて。
「はぁー温かい。中也大好き」
そう云うと抱き締めてくれるなんて。
期待しても、佳いのかしら。
女の子視点。
*****
拠点に帰ってきた中也は珍しくやつれ顔。
「大丈夫…?」
「流石に疲れた…」
私に回れ右をさせて後ろからのしかかって来る彼の髪をサラリと撫でると、其の儘手を重ねられて
「ん、もっと撫でろ」
「ほ、本当に…疲れてる、わね…」
何て軽口もしどろもどろになる程吃驚した。
*****
「腰が痛い」
余りにも痛いので思わず呟くと何故か楽しそうな中也。
「湿布貼ってやっただろうが」
「そんな直ぐに効かないわよ」
もう無理歩けないと駄々を捏ねると意外と素直にお姫様抱っこしてくれて
「其れだけ佳かったって事だろ」
「腰治るまで部屋に入って来ないで」
「其れは無理だな」
*****
「芥川先輩と仲良くして狡いです!」
樋口に詰め寄られ逃げ場が無い。
其んな事を云われても芥川が寄って来るのだから仕方ない。
「あの、頼みたい事が」
すると本人が登場したので
「用なら樋口に云って貰えるかしら」
とフォローしたのだが
あからさまに厭そうな顔をされた。
火に油を注がれた。
*****
珍しく彼女がソファで転た寝をしている。
何か掛けてやりたいが其れらしき物が見つからない。
「こんな時に限って樋口が居らん…」
困った挙げ句、最終手段として自分の外套を掛け、何時でも羅生門が使える様傍に居る事にした。
「め、珍しいな…手前が膝枕とか、雪でも降るんじゃねぇか?」
*****
「お腹痛い…」
痛み止めを飲んだのに治まってくれない腹痛に悩んで居ると、目の前に芥川が。
「如何したのですか」
「カイロと湯湯婆と毛布が欲しいの」
「承知しました」
何も聞かず持って来てくれる何て紳士じゃない。
「其れで如何したのですか」
「聞くのね…樋口ならきっと知ってるわ…」
*****
「中也、例の物を…」
「ヤク中みてぇな事云うな」
持って来たのは蜂蜜入りのホットミルク。
私を膝の上に乗せて毛布で包んでくれる。
「今回重いのか」
「そうでも無いけど怠くて」
「湯湯婆要るか」
「今要らないわ、中也が温かいから」
「そうかよ」
「中也が世話焼きで嬉しい」
「何時もだろ」
*****
姐さんが自分の服を着てくれと云うので拝借すると、姐さんが物凄く愛でてくれる。
「誰かに見せたいのう」
「其れは止めましょう姐さ…」
「中也、丁度良かった」
「姐さん、中也は止めて」
「何ですか姐さ…」
嗤われる覚悟を決めたのに
「い、佳いんじゃねぇか…」
赤面する彼に調子が狂う。
*****
「雑用係ってのも大変だな」
「今日は…一段と酷いわね」
無残に散らかった談話室に佇む私に労いの言葉を掛けてくれる中也。
「手伝ってやるからさっさと片付けるぞ」
「でも中也、最近忙しいって…」
すると彼はニヤリと笑った。
「ただの口実だ、大人しく甘えてろ」
*****
突然の大雨に足止めを食らっていると中也が迎えに来てくれた。
「悪ィが一本しかねぇぞ」
と差し出す傘に二人で入ると地味に狭くて。
「もっと寄れ、濡れるぞ」
「此れ以上寄れないわ」
「こうすりゃ佳いんだよ」
そう云うと傘を持つ彼の腕に私のそれを巻き付かせた。
傘の下で甘い一時を。
*****
返り血が渇いて固くなった外套を差し出し、洗って欲しいと云う芥川。
「佳いけど、その間如何するの」
「貴女の横に居ます」
それだけ云って腰に巻き付いた腕は少し震えている。
「今日もお疲れ様」
私の言葉に応じる様に腕の力が強くなった。
君は頑張り過ぎるんだ。
*****
逆ナンに遭う中也に遭遇。
手慣れた様子であしらう姿を見ていると直ぐに見つかってしまった。
「相変わらずモテる事」
「興味ねェ」
気不味そうに首を掻く彼に理由を聞くと
「今も昔も好きな奴は変わってねェんだよ」
「え、まさか…」
「姐さん?」
「違ェよ!!」
そう云うなら早く告白してよ。
.
血の垂れた頬を手袋でゴシゴシと擦られる。痛い。
「怪我したんですか、手当てしますか?」
其処に芥川君がやって来たのでお願いしようと中也に背を向けると渾身の力で襟首を掴まれた。
「俺の女に触んじゃねェよ!!」
「中也、其れ初耳」
「え、あっ!!」
*****
「手前、いい加減にしろよ」
「生傷なんて日常茶飯事じゃない。如何してそんなに怒ってるの」
何時に無くご機嫌斜めの中也に溜め息を吐くと端正な顔がグシャリと歪む。
「顔に傷作んの止めろって云ってんだ!…手前は女だろうが」
そう云って救急箱を出してくれる辺り彼は優しい人なんだ。
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窓から入る日が眩しくて身を捩ると、何かが頭に乗り、髪をグシャグシャにされた。
フワリと珈琲の薫りが漂う。
「お早う、やっと起きたのかよ」
「…珈琲の匂いがする」
「手前も呑むか?」
立ち上がろうとする中也の腕を掴んで布団に引きずり込んだ。
「二度寝共犯して」
「首領に怒られんぞ」
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「おい、珈琲入れてくれ」
「今一寸忙しいの」
「一寸位佳いだろうが」
此れから外で仕事らしいが、私が走り回ってるのは見て解る筈なのだ。
だが不機嫌そうな中也に観念して仕方なく煎れる事になり、憂さ晴らしに彼を一瞥して一言。
「二度目はなくってよ!」
瞬間凄い形相で追い掛けて来た。
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「珍しい…」
普段寝ている処など殆ど見ない中也がソファで居眠りをいている。
余程疲れが溜まって居るのか、隣に座っても揺すっても起きる気配が無い。
「仕方ないわね」
私も珍しく膝枕なんてサービスしちゃったり。
「…は?て、手前…如何いう状態だこりゃあ!?」
「あら、起きた?」
*****
「芥川、聞こえてるんでしょ」
「…」
中也とのお茶から帰って早々、芥川に後ろから抱き付かれ、肩口に顔を押し付けられる。
何が遭ったのか聞きたいが本人は口を開かない。
首筋を撫でる髪が擽ったくて限界なのだが
「僕とも…茶を呑んで下さい」
思い掛け無い言葉に擽ったさ等忘れた。
*****
「で、茶から帰って来て此処でも茶呑んでんのかよ」
樋口に用意して貰ったお茶に口を付けると中也が依って来た。
「芥川が可愛くてつい」
「強請られちゃ仕方ねぇな」
そう云うと苦笑を洩らして去ろうとする中也は一度足を止め振り向いた。
「…樋口の目が血走ってるぞ。如何にかしてやれ」
*****
「中也寝た?」
「爆睡だ」
「起きてるじゃない」
「…何の用だよ」
こんな夜中に部屋に入ってくんじゃねぇよ。
「何か最近悪夢が続いてて」
無防備に潜り込んで来んじゃねぇよ。
「はぁー温かい。中也大好き」
期待させるような事云うんじゃねぇよ。
俺だって、男なんだぞ。
実は確信犯。
*****
「中也寝た?」
「爆睡だ」
「起きてるじゃない」
「…何の用だよ」
こんな夜中に部屋に入れてくれるなんて。
「何か最近悪夢が続いてて」
勝手に潜り込んでも怒らないなんて。
「はぁー温かい。中也大好き」
そう云うと抱き締めてくれるなんて。
期待しても、佳いのかしら。
女の子視点。
*****
拠点に帰ってきた中也は珍しくやつれ顔。
「大丈夫…?」
「流石に疲れた…」
私に回れ右をさせて後ろからのしかかって来る彼の髪をサラリと撫でると、其の儘手を重ねられて
「ん、もっと撫でろ」
「ほ、本当に…疲れてる、わね…」
何て軽口もしどろもどろになる程吃驚した。
*****
「腰が痛い」
余りにも痛いので思わず呟くと何故か楽しそうな中也。
「湿布貼ってやっただろうが」
「そんな直ぐに効かないわよ」
もう無理歩けないと駄々を捏ねると意外と素直にお姫様抱っこしてくれて
「其れだけ佳かったって事だろ」
「腰治るまで部屋に入って来ないで」
「其れは無理だな」
*****
「芥川先輩と仲良くして狡いです!」
樋口に詰め寄られ逃げ場が無い。
其んな事を云われても芥川が寄って来るのだから仕方ない。
「あの、頼みたい事が」
すると本人が登場したので
「用なら樋口に云って貰えるかしら」
とフォローしたのだが
あからさまに厭そうな顔をされた。
火に油を注がれた。
*****
珍しく彼女がソファで転た寝をしている。
何か掛けてやりたいが其れらしき物が見つからない。
「こんな時に限って樋口が居らん…」
困った挙げ句、最終手段として自分の外套を掛け、何時でも羅生門が使える様傍に居る事にした。
「め、珍しいな…手前が膝枕とか、雪でも降るんじゃねぇか?」
*****
「お腹痛い…」
痛み止めを飲んだのに治まってくれない腹痛に悩んで居ると、目の前に芥川が。
「如何したのですか」
「カイロと湯湯婆と毛布が欲しいの」
「承知しました」
何も聞かず持って来てくれる何て紳士じゃない。
「其れで如何したのですか」
「聞くのね…樋口ならきっと知ってるわ…」
*****
「中也、例の物を…」
「ヤク中みてぇな事云うな」
持って来たのは蜂蜜入りのホットミルク。
私を膝の上に乗せて毛布で包んでくれる。
「今回重いのか」
「そうでも無いけど怠くて」
「湯湯婆要るか」
「今要らないわ、中也が温かいから」
「そうかよ」
「中也が世話焼きで嬉しい」
「何時もだろ」
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姐さんが自分の服を着てくれと云うので拝借すると、姐さんが物凄く愛でてくれる。
「誰かに見せたいのう」
「其れは止めましょう姐さ…」
「中也、丁度良かった」
「姐さん、中也は止めて」
「何ですか姐さ…」
嗤われる覚悟を決めたのに
「い、佳いんじゃねぇか…」
赤面する彼に調子が狂う。
*****
「雑用係ってのも大変だな」
「今日は…一段と酷いわね」
無残に散らかった談話室に佇む私に労いの言葉を掛けてくれる中也。
「手伝ってやるからさっさと片付けるぞ」
「でも中也、最近忙しいって…」
すると彼はニヤリと笑った。
「ただの口実だ、大人しく甘えてろ」
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突然の大雨に足止めを食らっていると中也が迎えに来てくれた。
「悪ィが一本しかねぇぞ」
と差し出す傘に二人で入ると地味に狭くて。
「もっと寄れ、濡れるぞ」
「此れ以上寄れないわ」
「こうすりゃ佳いんだよ」
そう云うと傘を持つ彼の腕に私のそれを巻き付かせた。
傘の下で甘い一時を。
*****
返り血が渇いて固くなった外套を差し出し、洗って欲しいと云う芥川。
「佳いけど、その間如何するの」
「貴女の横に居ます」
それだけ云って腰に巻き付いた腕は少し震えている。
「今日もお疲れ様」
私の言葉に応じる様に腕の力が強くなった。
君は頑張り過ぎるんだ。
*****
逆ナンに遭う中也に遭遇。
手慣れた様子であしらう姿を見ていると直ぐに見つかってしまった。
「相変わらずモテる事」
「興味ねェ」
気不味そうに首を掻く彼に理由を聞くと
「今も昔も好きな奴は変わってねェんだよ」
「え、まさか…」
「姐さん?」
「違ェよ!!」
そう云うなら早く告白してよ。
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