新たな一面
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「嗚呼楽しかった!」
喫茶店の窓際のソファ席に腰を下ろした八雲は大きな伸びをして背もたれに体を預けた。
騒音を聞き過ぎたせいで少し耳鳴りがするが、八雲が楽しかったならまあ良しとするか。
「手前がゲヱムやったり射撃を教わってたなんて初めて聞いたぜ」
「何時か云おうと思ってたんだけどなかなか機会が無くて」
「意外と上手いしな」
「意外って何よ」
膨れっ面で肩に凭れて来る八雲の頭を撫でると直ぐに気持ち良さそうに口元を緩める。
「他に何か気付いた?」
「手前に獲物を持たせちゃ駄目だって事だな」
「何で?射撃ゲヱム上手かったでしょ?」
「だからだよ」
「幹部にのし上がっちゃうかしら」
期待を込めて見つめて来る八雲の額を小突くとまた膨れっ面に戻る。
「然し手前、随分と大胆な事したな」
「え、何の事?」
「写真機の中でだよ」
すると八雲は俺の肩口にグリグリと頭を擦り付け始めた。
何なんだ、可愛い奴だな。
「中也があんな事云うから…」
「俺何か不味い事云ったか?」
「…本当、時々出る此の天然は如何したものかしらね」
俺に見せつける様に溜め息を吐かれ、眉間に皺が寄る。
「急に褒めるし、人混みでは手を繋いでくれるし、スカートの事気にしてくれるし。中也って本当紳士よね」
「…そんな事考えてたのかよ」
「あら、大事な事よ。ただ…」
「自分の女を褒めるのも護るのも当然の事だろうが」
「!…ふふ、私にしかしないって事?」
「当たり前だ、他に誰にすんだよ」
俺の言葉に嬉しそうに笑いまた肩口に頭を擦り付けた後、肩から頭が離れる。
其の直後、店員が注文した珈琲と洋菓子を持って来たので店員に礼を云い珈琲を一口飲む。
「でも今日は本当に楽しかったわ」
「ゲーセンそんなに楽しかったのか?」
「其れも楽しかったけど、何時もと違う処に来ると良く知っている人でも知らない一面が見られて楽しいの。そう思わない?」
「そう、だな…」
確かに、今日は八雲の知らない一面を何個も知った。
何時もの静かな処で面と向かって話すよりも多くの事を知れた気がする。
「矢張り無理矢理にでも街に連れて来て良かったわ」
「八雲?」
「好きな人の新たな一面が見られるって、こんなに嬉しいのね」
洋菓子を一口含み照れ笑いする八雲に、俺の心臓が撃ち抜かれた。
確かに、今までのデヱトだったら今日初めて見た一面も、此の笑顔も一生見られなかったかもしれない。
面と向かって話していたら何時かは八雲の全てが知れると思っていたが、其れだけじゃ駄目だったみてえだな。
「…またやるか、街中デエト」
「ふふ、楽しみだわ。次は何処に行こうかしら」
何時の間にか洋菓子を食べ終えた八雲は鞄からゲーセンで撮った写真を取り出す。
「あ!折角のキスシーンが隠れてるじゃない!!」
「写真に残すもんじゃねえだろ」
「もう…じゃあ帰ったら芥川に此れ見せ乍らお土産話してあげるわ」
「止めろ」
「一枚彼の私物に貼ってあげようかしら」
「止めろ!!!」
慌てる俺の頬を両手で挟み込み、冗談よと云って彼女は目を閉じる。
何回も見ている筈なのに初めて見る様な気分になる表情にドギマギし乍ら、俺は其の顔に唇を寄せた。
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