指輪と営業妨害
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「今回も助かった。また宜しく頼むぞ探偵屋」
「何時でも連絡してよ」
警察署の入口で箕浦と江戸川兄妹が向かい合っていた。
乱歩が話している間も翡翠は俯いており、その腕は乱歩の腕にしっかりと巻き付いていた。
「探偵屋、どれだけ妹を驚かせたんだ。まだ怯えているじゃないか」
「嗚呼、其の事なんだけど」
「何だ?」
「今日僕に付いた検察の女性、二度と僕の担当する事件には連れて来ないで」
「は?」
「完璧な営業妨害だよ。仕事中に私情を挟むなんてさ」
「…本人にも話を聞いてみる」
「頼むよ」
それじゃ、と踵を返し二人は警察署を後にした。
何時もは笑顔で挨拶と会釈をする翡翠は俯いたまま一言も言葉を発さない。
「兄妹喧嘩か?」
箕浦は判らん、と頭を掻き乍ら署内へと戻って行った。
「翡翠」
「…なぁに」
「驚かせて御免ね」
「吃驚した…」
グス、と鼻を鳴らし乍ら顔を上げる翡翠。
「判っては、居たんだよね…?」
「うん…視えてた、けど…」
「けど?」
「あの場面を見た瞬間に、頭が真っ白になって…判ってるのに、信じられなくなっちゃって…」
「うん、そうだよね。御免ね」
誰も居ない道の真ん中で、乱歩は翡翠を抱き締めた。
翡翠は大人しく包まれている。
「でも僕は他の女性なんて興味ない。お前じゃないと厭なんだ。此の言葉は、信じてくれる?」
「うん…信じる」
「有難う翡翠」
ギュッと抱き締め返してくれる彼女に乱歩の頬が緩む。
顔を上げた翡翠と見つめ合い、両手で隠すように軽い接吻をした。
「やっぱり指輪は必要だね」
「うん、今から購いに行こう」
「其れを着けて明日デエトするんだよね」
「そうだよ、昨日考えたコースで良い?」
「うん、楽しみ」
また腕を絡め歩き出す二人の顔には笑顔が戻っていた。
ニコニコと明日のデエトの事や指輪について語り合う二人は傍から見れば少し容姿の似た恋人同士にしか見えないだろう。
「私ね、ピンクが良いな」
「え、ピンクの指輪なんてあったっけ」
「ピンクゴールドって云うのがあるんだよ、知らない?」
「…あったっけ」
「あるよ。昨日も話したのに」
覚えてないの?と頬を膨らませる翡翠を見つつ乱歩の顔に冷や汗が垂れる。
「翡翠はゴールドが良いと思うなあ」
「厭、ピンクゴールドが良い」
「お店決めてたんだけどなあ」
「其のお店で有るか聞いてみようよ」
折れない。頑なに折れない。
流石妹だと感心するも真逆の要望と自分の調査不足に苦しい顔になる。
「乱歩、驚かしたんだから私のお願い聞いてくれるよね?」
「……判った。店員さんに聞いてみよう」
「やった!乱歩大好き」
「僕そんな現金な子に育てた覚えは無いよ」
「育っちゃったよ?」
自分に似た悪戯っ子の様な表情に溜め息を一つ吐き、隣の我儘お嬢様の希望を叶えるべく店へと歩を進めた。
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