指輪と営業妨害
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「服着替えて来て良かったね」
「うん…」
現場は見るも無残な状態だった。
辺り一面真っ赤に染まり、被害者が複数居る事は明らか。
手口も何となく察しはついたが余り口にしたくない程に残虐性のあるものだ。
現場を注意深く観察する二人のもとに足音が近付いて来た。
「休暇中に済まんな探偵屋」
「本当だよ。此れから妹とデヱトの筈だったのにさあ」
「ハハハそうか。そりゃ悪かったな」
声のする方を振り返ると箕浦刑事が女性の警官を連れて近付いて来る処だった。
女性警官は栗色のミディアムヘアを軽く巻いて顔の横でふわふわと揺らしており、優し気な目元とのギャップを感じさせる真っ赤な口紅を引いている。
異能を使わずとも直感で女性警官に苦手意識を持った翡翠が隣に一歩寄り添うと、乱歩は心情を察したのか落ち着かせるように肩に優しく手を置いた。
其の瞬間、女性警官の眉がピクリと動いたのも、二人とも見逃さなかった。
「此奴は検察だ。現場の状況が知りたければ彼女に聞いてくれ」
「判った」
あやすようにポンポンと肩を叩いて、乱歩は一歩二歩と彼女に歩み寄った。
肩から離れる温もりに怖くなって付いて行こうとするが、足を動かす前に乱歩の口が開く。
「じゃあ案内して!今日は急ぎの用があるんだ」
「ええ、畏まりました」
「翡翠、お前は箕浦さんと証拠品を見て来て」
「えっ」
何時もなら現場では常に一緒に行動していただけに、乱歩の発言に翡翠は肩を揺らし、乱歩に伸ばそうとしていた手を反射的に引っ込めてしまった。
乱歩の隣に収まった女性警官は勝ち誇った笑みを浮かべて見下す様な視線を刺してくる。
「僕の顔を見て。全部書いてあるでしょ?」
「う、うん…」
「頼りにしてるよ。それじゃあ行こうか」
「ご案内します」
乱歩の半歩先を行く女性の妖艶な笑みに翡翠の心臓がキュッと締まる。
二人の姿が見えなくなるまで見送ってから、取り残された箕浦が翡翠に話し掛けた。
「兄を取られて寂しいか、嬢ちゃん」
「へ!?ぇ、あ…」
「何時も一緒に居たもんなあ。探偵屋も一体如何云う心境の変化なのか…」
「………」
兄の消えた方向を見つめ何時までも背を丸める翡翠の背中をバシバシと叩き、箕浦は親指で自分の後ろを差した。
「証拠品、見るだろ?頑張れば兄貴だって褒めに戻って来るさ」
「…!はい!!」
ちゃんと帰って来てくれる事を期待して、翡翠は腕捲りをしながら証拠品に近付いた。
ポケットから白い手袋を出して証拠品を触る。
如何やら顔写真の付いているものを探しているらしい。
「あった」
「其れは…手帳?」
「表紙の後ろに写真があります」
「お前さんの異能は写真でも発動するのか」
「はい」
そう云うと写真を手に目を閉じてゆっくりと息を吸い、瞼を上げながら小さく言葉を紡いだ。
———異能力【人間椅子】
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