指輪と営業妨害
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「ねえ翡翠、指輪買おうよ」
「指輪?」
翡翠が洗濯物を畳んでいると、乱歩が不機嫌そうに後ろから抱き竦めて来た。
突然の提案に畳む手が止まる。
「お兄ちゃんが装飾品なんて珍しいね」
「…お前ならそう返すだろうと思ったよ」
益々不機嫌になった乱歩が腕の力を強め、翡翠は夕食が逆流しそうになるのを必死で留めた。
乱歩が望む返答をしなかった事を踏まえ、何故そんな事を言いだしたのか原因を探す。
「嗚呼、若しかしてこの前お兄ちゃん告白されたから?」
「そ。もう煩わしくて仕方無いよ」
異能探偵、江戸川乱歩。
その名は日本全国に馳せ、其の天才的な頭脳と天真爛漫で自信家な態度が一部の女性を惚れさせる要因となっているらしい。
事件を担当すると月に一度か二度は告白され、其の度にバッサリと切り捨てるのだが、大分心労になってしまっているようだ。
「僕には賢くて可愛い彼女が此処に居るって云うのに」
「ふふ、ありがと」
「流し方覚えて来たね?ま、そんなとこも可愛いんだけど」
頬に口付けて耳元で囁けば翡翠の耳がほんのりと染まり、乱歩は少しだけ機嫌を取り戻す。
「と云う訳で、明日購いに行くよ」
「デヱト?」
「此れがデヱトじゃ無かったら世の中の男女の逢瀬はほぼデヱトじゃなくなるね」
「そうだね」
明日に備えて早く寝よう、と声を掛け乍らタオルだけ畳み始める乱歩に礼を云い、翡翠もせっせと手を動かしなおした。
寝台に入り明日のデヱトコースを提案し合っている間に二人とも同時に眠りに落ちて行った。
翌朝。
支度の最中に乱歩の携帯に連絡が入った。
「ええ、仕事?」
『至急現場に向かってくれとの通達だ』
「僕等今日休みなんだけど」
『明日休みをやるから、頼んだぞ』
「一寸社長!…あ、切れた」
電話口に苛立ちをぶつける乱歩を心配して、化粧を施していた翡翠が駆け寄る。
「如何したの?」
「仕事だって…」
「タイミング悪いね」
「何で今日に限って!」
「仕方無いよ、明日お休み貰えるんでしょ?」
「そうだけど…」
今日のデヱトをとても楽しみにしていた乱歩は背を丸めて項垂れてしまった。
此の儘では仕事に支障が出そうだと悟った翡翠が乱歩の顔を両手で包む。
「一日デヱトは出来ないけど、早く終わらせたら今日購いに行けるよ」
「でも」
「其れで、明日は購った指輪を付けてデヱトするの。素敵だと思うなあ」
「…しょうがない。ちゃちゃっと片付けて購いに行こう」
「うん!」
未だ不満げに尖らす唇に口付けをする。
柔らかなリップ音の先にニコリと微笑む翡翠を視界に入れ、乱歩は漸く笑顔を見せた。
そしてデヱト用に着ていた服を脱ぎ、仕事着に着替え、二人は手を繋いで現場へと向かった。
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