深刻ナ君不足
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「気がするだけだった…」
「太宰、報告書が溜まってるぞ。サッサと出せ」
一ヶ月後、太宰は魂が抜けたように机に突っ伏していた。
相棒の国木田が幾ら突いてもピクリともしない。
「澄ちゃん、如何してるかなあ…」
「きっと大丈夫ですよ。中原さんもついてるんですし」
「中也だから心配しているのだよ敦君…」
「あはは…」
盛大な溜め息に空笑いしか返せないでいると、扉がノックされた。
「あら、何方かしら」
ナオミがガチャリと扉を開けると、其処には…
「きゃあ!」
「お前、黒蜥蜴の…!」
「奇襲か?」
「ま、待て!今日はそう云う目的で来たんじゃない!」
突然の来訪者に身構える社員から一歩遅れて顔を上げた太宰が其の姿を確認する。
「なんだ、広津さんか…」
「太宰さん、何時もの覇気がありませんが」
「私は何時だって覇気が無いのだよ」
半ば拗ねる様に再度突っ伏した太宰を不思議そうに見やる広津。
其処へ社長室の扉が開き、福沢が広津の前までやって来た。
「書類係の代行は貴殿か」
「如何にも」
「では此れを」
「頂戴します。此方は首領からの書類です」
「うむ」
口調だけ聞くと物々しい雰囲気の中、A4サイズの封筒が交換される。
福沢がやり取りをしているからか、普段はだらけている乱歩が心配そうに観察していた。
「え、もしかして広津さんって澄ちゃんの代行なの?」
「ええ。まだ暫く帰らないそうなので」
「嘘でしょ…私が幹部の時はそんな長い出張なんて無かったのに…」
「彼女は中原殿の部下になったばかりですから、覚える事が多いのですよ」
太宰の態度に苦笑を返す広津の言葉が引っ掛かる。
「一寸待って。今中也の部下って云った?」
「はい」
「直属の部下って事?」
「そうです」
頷く広津を絶望した様な顔で見る太宰はふと先日の中也の台詞を思い出した。
———新米の部下に仕事を覚えさせるだけだ
「あれ…そう云う意味だったの…」
火を加えた茄子の様にしなしなと其の場に崩れるのを見過ごせず、広津は風貌からは想像し辛い最新のスマートフォンを懐から取り出し太宰に見せた。
何事かと渋々顔を上げた太宰の表情はみるみる内に水分を取り戻す。
「澄ちゃん!!」
「招宴に出席した様ですよ」
「可愛い!とても素敵なドレスじゃあないか!!」
年相応のシフォンのワンピースを着て恥ずかしそうにはにかむ画面の中の澄を穴が開く程見つめる。
今にも「太宰さん」と名前を呼んでくれそうだが、その画像は静止画である。
「広津さん、一生のお願いがあるのだけど」
「画像なら差し上げますよ」
「流石!話が早いねえ!!」
急に立ち上がって外套のポケットから携帯を取り出すと早くくれと云わんばかりにソワソワし始めた。
社内はそんな太宰をある者は微笑ましそうに、ある者は呆れた顔で眺めている。
「届きましたかな?」
「うん!有難う広津さん!」
浮かれ気味の元上司に恭しくお辞儀をした広津は丁寧に扉を閉めてその場を後にした。
今にも飛んでいきそうな太宰に見張るような視線を送る国木田。
「此れでもう暫く頑張れそうだよ」
「なら報告書を出せ、太宰」
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