深刻ナ君不足
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「え、出張…?」
午前中の業務も中盤になって来た時間に、太宰の声が探偵社に響く。
其の目の前に立つポートマフィアと武装探偵社を繋ぐ書類係である芥川家の末妹——芥川澄が当然の様にコクリと頷き、太宰の先刻の言葉に肯定の返事をした。
「此れから行くの」
「一体何処に…」
「其れは云えないよ~」
澄は出張が楽しみなのだろう。
ニコニコと笑顔を振り撒き全身で其の心情を伝えている。
すると澄の隣に鏡花が心配そうな表情で寄って来た。
「戦場…?」
「ううん違うよ。私は戦闘員じゃないから」
「そう、なら良かった…」
首から下げた携帯電話とうさぎのぬいぐるみを握りながら安堵の溜め息を吐く鏡花にお土産は何が良いか質問する澄の横を通り過ぎ、太宰は窓の外を眺める。
探偵社のある赤茶色のビルの下に澄を待って停まっているのであろう黒塗りの高級車を見て、太宰の顔から血の気が引いた。
「え、一寸待って…あの車って」
「太宰さん知ってるの?」
「あれ、中也の車だよね…?」
「うん!一緒に行くの」
「二人で…?」
「お付きの人は何人か居るけど、基本二人で行動するって云ってたよ」
本人は依然として楽しそうに話すが、太宰は冷や汗が止まらない。
意中の人が目の前で他の男とデヱトすると云っているのだ。
現実は只の出張だが、如何しても太宰はその想像を外に追いやる事が出来ずにいる。
「い、何時帰って来るの…」
「うーん、それが良く分からないの。大した荷物じゃないからすぐ戻って来ると思うんだけど」
その返答を聞いて、太宰の涙腺が崩壊した。
180cm以上の長身の男が突っ立ってボロボロと涙を零す様に社内が騒然とする。
そんな表情など見た事のなかった澄は慌ててポケットからハンカチを取り出し、太宰の涙を拭ってあげた。
「何で泣いてるの太宰さん」
「君が…遠くに行っちゃうと思ったら…」
「大袈裟だよ。ちゃんと帰って来るんだし」
「絶対だよ。私と約束しておくれ」
ハンカチを持つ手を両手でギュッと握り真剣な眼差しで澄を見つめる。
「うん。そうだ、帰って来たらまたケヱキ屋さんに連れてって!出張のお話してあげる!」
「本当かい?」
「だからお勧めのケヱキ屋さん探しといてね」
先程まで出張に対してだった楽しそうな笑顔が自分との予定に向けられた事に、太宰は心の奥底から安堵した。
と、其処へ。
「澄、そろそろ行くぞ」
「中也さん」
探偵社の扉が開き、肩に外套を掛けた中也が顔を出した。
社内の光景を見て眉間に皺を寄せる。
「澄が下りて来ねえ原因は手前か、太宰」
「君と二人で出張だそうだね。本当なら全力で阻止する処だけど、澄ちゃんが楽しそうだから今回は見逃してあげるよ」
「俺は手前みてえなロリコンとは違えんだよ。新米の部下に仕事を覚えさせるだけだ」
中也と同じ様に厭そうな顔をして威嚇する太宰に中也が呆れて溜め息を吐く。
「行くぞ。此れ以上は先方を待たせる」
「はあい」
スルリと太宰の手を抜け中也の元へと駆け寄る澄を寂しそうな表情で見送る。
鏡花を始め探偵社の全員に手を振った後、澄はチラリと太宰と視線を重ねた。
「ケヱキ」
声を発さず口だけでそう云ったのを、太宰はちゃんと理解した。
彼女の表情から楽しみにしている事がヒシヒシと伝わって来て、太宰は此れから暫く訪れる彼女との別れも乗り切れる気がした。
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