壱頁完結物

あらすじ
チンピラに絡まれているモブ女を助けたら惚れられてしまった太宰。
探偵社に助けを求めるも、自業自得だと相手にしてもらえないのだった。
登場人物
太宰、敦、乱歩、翡翠、国木田をメインに探偵社がわちゃわちゃ


*****


「今日も連絡が来てる…」
「心中も厭わないなら佳いじゃないですか」
「佳くない!私は君と心中したいのに!」
「僕の妹は殺させないよ太宰」
そんな会話が飛び交う探偵社。
流石の太宰も参っている様だ。
「ハッキリ断っても聞く耳を持たないし如何すれば…」

「自業自得じゃないですか」


*****


「五月蝿い!私の辞書に自業自得なんて言葉は無いんだ!」
「何て自分勝手な辞書なの!?」
「自分勝手何て言葉もない!食らえ、人間失格!」
乱歩の妹に飛び掛かる太宰を、痺れを切らした国木田が体術で伸した。
「こんな狭い部屋で暴れるな太宰!!」

「流石国木田だね!」


*****


結局泣き付かれた探偵社は太宰を助ける事にした。
「如何すれば諦めますかね」
「ナオミさんは如何ですか」
「そうですわね…振るより振られろ、幻滅作戦なんて如何でしょう」
「面白そうじゃないか」
「私は何をすれば善いのかな」
「此方で考えますからご心配なく」


「いや、心配なのだけど」


*****


翌日、太宰はげっそりした顔で外に出た。
本当に作戦は上手く行くのだろうか。
女性と合流し、一緒に歩を進める彼の後ろから数人がコッソリと付いて来る。
「お兄ちゃん、大丈夫かな…」
「僕は名探偵だよ、此の眼鏡さえあれば…」

「会社の机に忘れて来ちゃった!」
「見守るしかないな…」


*****


「わ、私は此の手の映画に目が無いのだよ」
辿り着いた先は映画館。
其処には修正が必要なスプラッタホラー映画の広告が掲げられている。
「いくら心中出来るとは云え此を喜んで見る太宰には引くだろう」
そう云った国木田の視線の先には目を輝かせる女性の姿。

「…失敗かもしれん」


*****


映画が終わり更にげっそりした太宰と楽しそうに感想を話す女性が並んで出て来た。
「逆に凄いですねあの人…」
「人は見た目に依らん、覚えておけ敦」
「次は何処に行くんでしたっけ」
「行き付けのご飯屋さんだよ」
「今回店員を口説くと彼女が傷付くので却下している」

「大丈夫かな…」


*****


うずまきに着いた二人はカウンター席に並んで座っている。
少し離れたテーブル席から見守る面々。
暫くして白いご飯だけが丼に入って出て来た。
「あれに味の素掛けるとか正気の沙汰じゃないよね」
「こんな物食えるか、で去ってくれれば…」

すると女性は其れを美味しそうに食べ始めた。


*****


「如何なってるんだ…?」
「え、美味しいの?あれ美味しいの?」
「おい、太宰の奴嬉しそうだぞ」
「同士が出来た顔してる…」
余りの食べっぷりにドン引きする尾行組。
「僕らが引いて如何するんですか」
「其れもそうだな…」

気を取り直して店を出る二人を追い掛けることにした。


*****


「太宰さんめっちゃ此方見てますよ」
「如何にかしろって顔だね」
「真逆此処まで強いとは思わなかった」
半ば諦めモードで後ろを付いて行く一同。
次は何処に行こうかとはしゃぐ女性を見ていると、何だかお似合いな気さえするのだ。

「もうくっつけば良いんじゃないですか?」


*****


「仕方無い計画変更だ。アレで行くぞ」
国木田の指示で配置に付く一同。
突然後ろに人が居なくなり不安になる太宰の前に柄の悪い人物が立ち憚った。
「お兄さん、デェトですか?」
「羨ましいねぇ。妾達にも幸せを分けておくれよ」
「ほら財布出せよ!」

「さぁ太宰、腕の見せ処だぞ!」


*****


「も、申し訳ない!」
チンピラ相手にあの太宰が土下座を始めた。
「気分を害してしまったなら謝る!命だけは…あ、財布を渡そう!だから見逃してくれ!」
物陰で敦と国木田が引いているが、女性は状況が分からないのかオロオロしている。

「ちゃんと撮れてる?」
「バッチリだよお兄ちゃん」


*****


財布を渡された谷崎が中身を確認する。
「弐千円しか入ってないじゃないか!」
「もっと持ってますよね?」
其処から出せ出せと暴行が始まった。
「普段から仕事して下さい国木田さん困ってるでしょ!」
「太宰さん、僕牛が欲しいです!」
「善い感じに怪我してるね、治療してやろうか?」


*****


「一寸!個人的な恨みとか要望とか云う処じゃないでしょ!?」
「僕だって一生懸命仕事してるんです!」
「豚さんでも佳いですよ!」
「ほら治療してやるよ」
「~~っ佳い加減にしないか!!」
流石の太宰も怒って反撃に興じてしまった。

「これも失敗?」
「此の様子だとそうだね」


*****


夕方の河川敷。
太宰は窶れ切って居た。
結局あれから引かれる事もなく、逆に自分を護る為に体を張ってくれたのだと嬉しそうだった。
「もう無理です太宰さん」
「そんな事云わないでおくれよ…」
「あ、眼鏡出て来た」
「乱歩さん!」
「何か佳い案は出そうですか?」

「耳を貸してご覧」


*****


女性が視界から消えた太宰を探している。
「此処だよ、でもまだ振り向かないでくれ給え」
その言葉に素直に従う女性に近付く太宰。
「…佳いよ」
振り向いた女性の視線の先には“味の素”と書かれた着ぐるみを着た太宰の姿があった。

「乱歩さん、本当に上手く行くんですか…」
「まあ見てて」


*****


太宰の姿に狼狽える女性。
「わ、私は味の素星の王子だモト」
「モト!?」
「語尾付けた方がそれっぽいでしょ」
訝しげな敦。
「実は今日で星に帰らなきゃいけないモト」
「これ、信じるんですか?」
「信じても信じなくても結果は一緒だよ」

「今回ばかりはお兄ちゃんの思考が解らない…」


*****


すると女性は離れたくないと引き留め始めた。
その事に驚き、慌てて色んな言い訳を口にする太宰。
「信じた…」
「恋って凄いなぁ」
「国木田は見ないの?」
「俺の腹筋が壊れそうなので遠慮します」
「そろそろ迎えが来るモト」
そう云った太宰の前に人力車が停まる。

「王子、時間だモト」


*****


「御免ね賢治君…」
「難なく着こなしてる辺り流石だな」
太宰が人力車に乗ろうとする直前、女性は太宰を引き留めて頬にキスをする。
涙を浮かべながらも泣かない覚悟を決めた女性はとても素敵だった。
「さよならモト、さよならモト~!」

女性は太宰が見えなくなるまで手を振っていた。


*****


「太宰さん、お疲れ様でした」
「本当にね、何なの此の茶番」
「でも彼女諦めてくれただろう?」
「そうだけど…」
「もしかして太宰、一寸名残惜しかったりして」
「真逆!私が愛してるのは此の子だよ!」
「気持ち悪い着ぐるみで近付かないで下さい」
「何にせよ、一件落着だな…」

めでたし。


*****


おまけ

「ぱぱみて、あおしゃばしゃん」
「あ?手前佳く見つけ…何だありゃあ」
「あおしゃばしゃんあかーい」
「着ぐるみ?如何云う状況だ…」
「おんなのひととちゅーしてる」
「あんま見るな、目が腐るぞ」
「えっ、ぱぱみえなくなっちゃうの…?」
「…嘘だけど見んな」

味の素太宰さんを見た父娘。



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