壱頁完結物
「わあぁぁん!!」
「きゃあ!?」
急にお兄ちゃんが泣き乍ら仕事中の私に後ろから抱き着いて来た。
少し遅れて社長室から先生がしかめっ面で出て来た。
「…お兄ちゃん、先生を怒らせたの?」
「僕何もしてない!!」
鼓膜が破れそうなのを我慢し顔を横に向けると、口をへの字に曲げたお兄ちゃんが見えた。
*****
お兄ちゃんの情報が見えて、私の眉間にも皺が寄る。
「…お兄ちゃん、来客中の社長室に入って先生のお茶菓子を食べた挙げ句お客様を怒らせちゃったのね」
事務所の物音が一切しなくなった。
隣の国木田さんが心労により吐血しそうだ。
「ちゃんと謝った?」
「…未だ」
「ほら、先生来てくれたよ」
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「しゃ、社長…」
「二度とせぬと約束するか、乱歩」
きっとお茶菓子が美味しかったのだろう。
なかなか首を縦に振ろうとしない。
「乱歩」
先生の声が低くなる。
「また妹に頭を下げさせる心算か」
「…っ!」
先生も相当怒っている様で、お兄ちゃんが此の儘謝らなければ私にも飛び火するみたい。
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「駄目ー!!此の前土下座させようとしたから駄目!!」
「お前が自分で謝らないからだろう」
あれはお客様にもご協力戴いた演技だったんだけど、お兄ちゃん気付いてないのかな…。
「ほら、私も一緒に行ってあげるから」
「……お前が来てくれるなら行く」
服の裾を摘まんで漸く渋々だが付いて来てくれた。
*****
「許して貰えて良かったね」
社長室から戻った私達に社員さん達は安心したようだ。
国木田さんの血色が良くなってる。
散々怒られて、流石のお兄ちゃんも堪えただろう。
「社長も酷いよ!あれ位の事であんなに怒るなん、て…」
「お兄ちゃん、今度は私がお説教してあげようかな?」
「…要らない」
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