壱頁完結物


「虫太郎さん、小説を書かれるんですね」
私の向かいで優雅に茶を飲む女性、もとい乱歩君の妹君が綺麗な所作で湯飲みを置いた。
「以前ポオの家に匿われていた時に一寸な。あの家には原稿用紙の無い部屋がない」
「ふふ、ポオさんらしいです」
クスクスと笑う表情の何と愛らしいことか…。


*****


「それで、書いている内に楽しくなって来たんですね」
「まあ、なんだ…その」
「友人と一緒に何かを創るって楽しいですもんね」
「…え」
「顔に書いてありますもの」
自身の内側を見られる気恥ずかしさに目を背けると、妹君はしゅんとしてしまった。
「あっ、ごめんなさい…何時もの癖でつい…」


*****


「気味が悪いですよね、御免なさい…」
どんどん縮こまっていく妹君は私が先刻の発言で気分を害したと勘違いしたようだ。
「ち、違うんだ!ヨコミゾを友人と呼ばれた事が少し気恥ずかしかっただけで…」
しどろもどろで格好がつかない事を嘆いていると妹君は顔を上げた。
「貴方はお優しいですね」


*****


自分へと向けられる笑顔に心拍数の上昇が止まらない。
「否、優しいと云うほどのものじゃ…」
「昔は此の異能でよく後ろ指を差されていましたから、理解して下さるだけでも凄く嬉しいんです」
「…そうなのか」
こんなにも可憐で純粋な少女を虐げるなど、私の異能を駆使して闇に葬ってやろうか。


*****


「私は自分でも自分の事が判らない事がよくあるんだ。だから君さえ良ければこれからも…」
「話し相手は許してあげるけどデヱトは禁止」
「…うわぁ!?」
後ろから名探偵がひょこりと顔を出し、妹君に抱き着いた。
…断じて羨ましくなどない。
「お兄ちゃん、人の話を遮らないの」
「お前を助けに来たのに」


*****


「私で良ければ何時でも、お待ちしてます」
「…!有難う」
「最近僕以外に優しくしすぎじゃないの?」
「お友達なんだから良いじゃない」
…友達?
トモダチ?
「君は、私の友人…なのか?」
「あれ、私はそう思ってたのですが…」
「嫌なら良いよ」
「嫌じゃない!断じて!!」
自分でも驚くほどの声量だった。


*****


羞恥に震える私の手を妹君が優しく握ってくれた。
良い匂いがする。
「有難う御座います。素敵なお友達を持てて嬉しいです」
先刻よりも近くで見た妹君の笑顔に、私の思考回路がショートした。
「虫太郎さん!?」
「あーあ、女性経験無いの丸判りじゃん」
目が覚めた部屋には原稿用紙が置いてあった。



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