壱頁完結物
人の顔を見ると其の人の個人情報や経歴が解る異能力を持つ私は、名探偵江戸川乱歩の妹であり、異能力集団武装探偵社の一員である。
そんな私は今、目の前の男性を見て固まっている。
「初めまして、今日からお世話になる太宰治です」
何故、ポートマフィアの幹部が此処に。
*****
社長に確認すると兄にも口外してはいけないと念を押され、其の代わり私の異能力も相手が気付くか自分から云わない限り太宰さんには口外しないと約束してくれた。
「何故彼を雇ったのですか」
「本人の口から聞けば佳い」
手渡されたのは何時もの買い物袋。
「太宰と買い出しに行ってくれ」
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「太宰さん、買い出しに付いて来て下さい」
太宰さんに話し掛けると後ろから返事が聞こえる。
「えー、太宰を連れて行くの?」
「先生からのご用命だから」
「じゃあ僕ラムネ」
相変わらずな兄に相槌を打っていると、太宰さんが手を差し出して来た。
「お手をどうぞ」
「…結構です」
「ちぇ」
*****
人混みは嫌いだ。
人の顔が見える度に情報も視えて視界が悪くなる。
「如何したの、具合でも悪いのかい?」
「いえ…」
歩幅が狭いのを気にしたのか太宰さんが声を掛けてくれる。
「やはり手を繋ごう。ほら」
そう云われて目の前の手を軽く握った瞬間。
今までに無い位視界が鮮明になった。
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茫然と辺りを見回す私を不思議そうに観察する太宰さん。
「文字が、消えた…」
「文字?」
「…貴方は異能力者に詳しいと思っていましたが、私の事は知らないんですね」
「そう云う君は私の事を知っている様だけど」
「えぇ、“視えて”ます」
彼の前職を告げると、彼の顔が一瞬歪んだ。
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「…成る程。人の情報が視える能力って処かな?」
彼の問いに無言で肯定する。
「探偵社は私にとって命と同じ位大切なものです。ポートマフィアの元幹部である貴方が危害を加え無いと云う証拠が欲しい」
上がっていた口角を下げ、太宰さんは私の手を引いた。
「教えよう、付いて来給え」
*****
着いた先は墓地だった。
「織田作は私の友達だった。見ての通りもう死んでしまったけれど」
まだ新しい墓石を見下ろす太宰さんの横に立つ。
「彼が最期に云ったのだよ。私に人を助ける仕事をしろとね」
私の様な汚れ者でも、探偵社は引き取ってくれたのだよ。
寂しそうな顔に嘘偽りは無くて。
*****
「解ってくれたかな?」
「半分程」
「えっ、半分だけ!?」
落ち込む太宰さんに溜め息を吐く。
「後の半分はこれからの仕事振り次第です、頑張って下さい」
そう云うと、彼は楽しそうな笑みを浮かべながらまた私の手を引いた。
「それなら此のお使いは成功させなければいけないね」
*****
探偵社に戻り、皆にお使いの品を渡す。
「お兄ちゃん、はいラムネ」
「有難う!…何か佳い事でも在った?」
「ううん、寧ろ私の異能力がバレちゃった」
国木田さんが驚いた顔で太宰さんを凝視するが、本人は何処吹く風。
「お兄ちゃんはお前を信じるよ」
探偵社に新しい仲間が増えました。
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