壱頁完結物
「にぃに、あけましておめとー」
「明けましておめでとう。あれ、まだ寝間着なの?」
のそのそと起きて来た乱歩の妹は寝ぼけ眼で兄を見た。
「…?」
「初詣行くからお着物着るの!って張り切ってたじゃない」
「そうだった…」
「忘れん坊さんだ」
兄の膝に乗る妹は今にも二度寝してしまいそうだ。
*****
「ほら起きて。襦袢は自分で着れるでしょ」
「んー」
眠い目を擦り妹は何とか立ち上がって部屋を出て行った。
入れ違いで福沢が入ってくる。
「妹は?」
「先刻起きたよ。襦袢着に部屋に戻ったけど」
「ちゃんと見ておけよ、あの様子じゃ二度寝するぞ」
見に行くと本当に二度寝していた。
*****
「わーい!ありがとにぃに!」
艶やかな着物を着て髪を結って貰った妹は鏡の前で自分の姿を見ていた。
「上手い物だな」
「妹の服は僕が着せてきたからね!」
得意顔の乱歩は何かを福沢の手に乗せた。
「此れは?」
「僕の着物!着せて!」
「…判った」
自分の着物は着付けられない理由は聞くのをやめた。
*****
「お前も鏡ばっかり見てないで此方見て」
「なんでー?」
鏡にべったり指紋を付けた妹が振り返った。
「大きくなったらお前に着付けて貰うから!」
「…自分で着付ける気は無いのだな」
歩きにくそうにチョコチョコ歩く妹が転けないか心配し乍ら乱歩の気付けをするのは大変だったと福沢は後に語る。
*****
「そんな事もあったね」
「今じゃ完璧だものね!」
「でもお兄ちゃん、何で両親が居る頃から私の着替えやってくれてたの?」
「そりゃお前のお世話が楽しかったからだけど」
「だけど?」
「今思えば、脱がせ方が判るからかなぁ」
帯締めを手に取る乱歩に今年も勝てそうにないと悟った妹だった。
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