壱頁完結物


年末。師走と呼ばれる此の時期は公私共に忙しくなる。
こんな事を云っている今も家の大掃除をしていた訳だが、僕は今妹に叱られている。
「お兄ちゃん、寝台でお菓子食べないでってあれほど云ったでしょ?」
「だって」
「だってじゃないの!」
怒り心頭の妹が手に持つのは複数のお菓子の外装だ。


*****


其れは妹が居ない時にこっそり食べて、ゴミ箱に捨てるのが面倒だと空の外装を寝台の下に置いたものだ。
「虫が沸くからやめてって常日頃から云ってるよね?」
「其の内捨てようと思ってたんだよ」
「其の内って何時?」
「…」
語気を強める妹には敵わず、この後の機嫌の取り方を考えるのが精一杯だ。


*****


「もうお家でのお菓子禁止にしなきゃだね」
「え!?」
「先生にも報告するからね」
「しゃ、社長に!?」
社長に報告されたら探偵社でお菓子を食べるのすら禁止されてしまう!
「云わなくても直してくれるなら云わない」
「直す、直すから!社長には云わないで!」
疑心に満ちた目になんて怯むもんか…!


*****


暫くの沈黙。無言の僕らの間を冷たい空気が通り過ぎていく。
「…判った」
「お前ならそう云ってくれると信じてたよ!」
「但し」
まだ許しきっていない顔で僕を見る。
「今年一杯はお家でのお菓子禁止」
「そ、そんな…!」
「降誕祭だけは許してあげる」
「嫌だ!」
「約束守ってくれないお兄ちゃん嫌い」


*****


「うわああ!」
僕は叫びながら飛び起きた。
社員の目が一斉に僕へと向けられる。
「…夢?」
「如何したのお兄ちゃん」
慌てて自分の席から駆け寄ってくる妹に、此処が探偵社であると理解する。
「酷い夢見た…」
「大丈夫?お水持ってくるね」
踵を返す妹を呼び止めると僕の横まで来てくれた。


*****


「何かあった?」
「僕、家ではちゃんと片付けるよ」
「本当に何かあったの…?」
不思議そうな妹の額に僕の其れをくっつける。
「お前に嫌われたくないもん」
「…今年の大掃除は捗りそうだね」
微笑んでくれる妹をめいいっぱい抱き締めると
「変なお兄ちゃん」
と笑われたけど、嫌われるよりずっと良い。


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