壱頁完結物

「わぁ、大きな南瓜だね!」
「実家から送られて来たんです!毎年この位の南瓜が沢山取れるんですよ」
巨大な南瓜を抱え嬉しそうに笑う後輩に釣られて頬が緩む。
「昔ジャック・オ・ランタンを作って貰おうとして社長が間違えた事あったよね」

棒付き飴を口から離した兄が天井を見上げ懐かしそうに呟く。


*****


「社長が?何かあったんですか」
珍しく国木田が会話に入ってきた。
「吃驚し過ぎて妹が泣いちゃったんだよね」
「あれは吃驚したなぁ」
笑う二人に首を傾げる社員たちに、乱歩は思い出話を聞かせることにした。

「確か社長の家に居候して初めてのハロウィンだったんだ」


*****


「せんせ、かぼちゃさんしてー」
妹が福沢に小さな南瓜を差し出した。
どうやら隣のおばあちゃんから貰ってきたらしい。
「立派な南瓜だな。判った、一寸待ってろ」
「やったー!かわいくしてね!」
「可愛く…?わ、判った」

腑に落ちない顔をして台所に消える福沢を、妹は楽しそうに見送った。


*****


夕食になり、妹は部屋で本を読んでいた乱歩を呼び食卓へとやって来た。
「南瓜が出来ているぞ」
「わー!せんせありがとー!」
嬉しそうに食卓へ入るが、目当ての物が見付からない。
「…?」
「何処を見ている、此れだ」

コトリと置かれた器の中には、ホクホクに炊かれた南瓜の煮付けが入っていた。


*****


「…かぼちゃさん」
「可愛く、は無いが味は保証する」
座布団に着席する福沢が妹を見ると、目に大粒の涙を溜めて兄にしがみついていた。
「ど、どうした」
「かぼちゃさんがぁ…」
「福沢さん、ハロウィン知らないの?」
「はろうぃん…?」

「妹はジャック・オ・ランタンを作ってほしかったんだよ」


*****


「何だ其れは」
「端的に云えば南瓜の提灯だよ。中身をくり抜いて顔を彫って中に蝋燭を入れるんだ」
「…知らん」
苦い顔で妹を見れば、この世の終わりのような表情で項垂れている。
「す、済まなかった」
「かぼちゃさん…」

此の状況を如何打開するか思案する福沢の耳にチャイムの音が入って来た。


*****


訪問者は隣のおばあちゃんだった。
南瓜の様子を見に来たようだ。
「妹ちゃん、ランタンは作って貰えたかい?」
「ううん…」
「私が誤って煮物にしてしまってな」
依然兄にしがみ付き鼻を啜る妹の目の前に、手のひらサイズの南瓜のランタンが現れた。

「じゃあ丁度良かったね。此のランタンあげる」


*****


「かぼちゃさん、くれるの?」
「うん、おばあちゃんからの贈呈品さ」
中を開けると蝋燭の代わりに飴玉が数個入っている。
「当日はお出掛けしていて家に居ないから、先に渡しておくよ」
もう泣くのはお止め、と笑い掛けられ、妹は南瓜を抱き締め嬉しそうに笑った。

「ありがと、おばあちゃん!」


*****


「其の後お礼に南瓜の煮物をあげたんだ」
「可愛らしい話じゃないか」
医務室から出ていたよさのが妹の頭を撫で乍ら笑っていると、社長室の扉がゆっくりと開いた。
「…乱歩、其の話は金輪際外ではしないように」

気不味そうに扉を閉める社長を、社員は微笑ましい面持ちで見つめていた。



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