壱頁完結物
とある休日、駄菓子を買いに来た江戸川兄妹に店主が話し掛けている。
「最近工事が騒がしいと思ったら、ゲーム屋さんが出来たのよ」
「ゲーム屋?」
「そのおかげで若い子達が此処にも来てくれるから嬉しいのよ」
「ふぅん、僕等も行ってみようか」
「うん!」
*****
駄菓子屋を出てすぐ、真新しい建物が目に入る。
此れが噂のゲーム屋だろう。
「大きいね」
「ゲーム屋と云うかゲームセンターだね」
「ねえお兄ちゃん、入ってみたい!」
「良いけど、手は絶対に離さないでよ?」
「うん!」
妹は兄の手をしっかりと握った。
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
*****
店に入ってすぐ、目の前に広がるぬいぐるみの山に、妹は目を輝かせた。
「可愛い!!」
「お前は本当にぬいぐるみが好きだね」
「だってフワフワで気持ち良いんだもん!」
「…僕より?」
ずい、と近付く乱歩に妹は顔を真っ赤にした。
「其れと此れとは違うの!」
「ふぅん?」
*****
ぬいぐるみの入ったクレーンゲームを見て回ると、ふと大きめの猫のぬいぐるみの前で立ち止まった。
「にゃんこ」
「目の色が変わったね」
「欲しいなぁ、取れるかなぁ」
「一回やってみたら?」
「うん!」
妹は財布からコインを出し、クレーンを動かした。
「うーん…難しいなあ」
*****
「如何しても欲しい?」
何度やっても上手くいかず膨れる妹の頬を突く乱歩。
「欲しい…」
「しょうがないなあ」
懐から眼鏡を取り出した乱歩に妹の目が輝く。
「取ってくれるの!?」
「如何しようかな~」
「お願い!お兄ちゃん!!」
「デヱト中にお兄ちゃんって呼ぶ子にはあげな~い」
*****
「うぅ~、お願い乱歩!」
「帰ったら僕のお願い何でも聞いてくれる?」
「聞く!だからにゃんこ取って!」
「言質取ったからね」
ニィ、と笑って乱歩は眼鏡を装着した。
「しょうがない、彼氏様が取ってあげよう!」
「きゃー乱歩格好良い!」
乱歩はコインを入れると操作ボタンに手を掛けた。
*****
「三つも取れるなんて…」
「僕にかかればこの位朝飯前だね!」
大きな袋でもパンパンに詰められた猫達を見乍ら、妹は感嘆の声を上げた。
其々色が違う猫達は早く出せと言わんばかりの眼光を飛ばしている。
「社長に一つあげようか」
「先生なら絶対三毛だよね!」
*****
家に帰りぬいぐるみを袋から出した妹は四六時中腕に抱えていた。
「そんなに気に入ったの?」
「だって可愛いんだもん!それに乱歩が取ってくれたし」
嬉しそうに笑う妹に乱歩の顔も緩む。
「そんなに喜んでくれるなら取った甲斐があったね」
「でも寝る時は置いていくこと!」
*****
「今日だけ…駄目?」
「そんな可愛く云っても駄ぁ目」
「むむ…」
「それに云ったでしょ。家に帰ったら何でも云う事聞くって」
妹からぬいぐるみを取り上げ其の侭口付けを交わす。
「ちゃんと彼氏の事も構いなさい」
「…はぁい」
ぶっきらぼうな返事も真っ赤な顔じゃ怖くないよ?
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