壱頁完結物
「すみません、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だが…君こそ大丈夫か?」
「はい、虫太郎さんのお陰で何とか」
相手に届くか届かないかの声量で喋る二人。
「然し此の状況、乱歩君に見られたら私の人生が終る」
「大袈裟ですよ。其れにしても狭いですね…」
「コンテナが此れ程に狭いとは…」
*****
二人は倉庫街のコンテナの一つに潜り込んでいた。
先日探偵社が検挙した密輸グループの残党が、復讐にと使いに出ていた乱歩の妹を拐おうとし
たまたま通り掛かった虫太郎によって保護されたのだが…。
「中がこんなに荷物だらけとは…」
「まだ足音もしますし、もう少し我慢しましょう」
*****
辺りを警戒する妹を前に虫太郎は動揺していた。
(良い匂いがする…)
微かに鼻孔を擽る香の薫りと、密着した肌の感触はこの世の物とは思えない程に心地好く、少しでも気を抜けば理性が切れそうだ。
「敵は、まだ居るか…?」
「はい。しつこい奴等です」
「早く消えてくれ…」
我が理性の為にも。
*****
誰かの足音が倉庫に大きく響く。
虫太郎の異能でコンテナに入った証拠は消した筈なのに、其の足音は着実に自分達へ向かってくる。
「ど、如何しましょう…!」
「開けられた瞬間に叩き込むしかない…」
焦る二人を余所に、コンテナの扉が無慈悲にも開け放たれた。
*****
「嗚呼いたいた」
「へ…?」
扉の先には間延びした声を発する眼鏡の男が居た。
「お兄ちゃん!」
「帰りが遅いから迎えに来ちゃった」
中から妹を引っ張り出して抱き締める乱歩。
「怪我は無いね?」
「うん平気、虫太郎さんに助けて貰ったから」
「そう、じゃあお礼を云わなくちゃね」
*****
「乱歩君、目が笑っていないのだが…」
虫太郎が一歩後退ると乱歩が一歩前に進む。
「だってこぉんな狭い処に妹を連れ込んで、何しようとしてたの?」
「否、本当にただ助けようと…此処が狭い事も入ってから知って」
「ふぅん?」
「ひぃ!」
「お兄ちゃん、虫太郎さんに失礼だよ」
*****
「皆無事だったんだし、ね?」
「むぅ…」
不服そうな乱歩の向かいで虫太郎が感涙する。
「虫太郎さん、本当に有難う御座いました。宜しければ探偵社でお茶でも如何ですか?」
「良いのか!?」
「はい」
話が弾む二人に乱歩は益々機嫌を損ねた。
「国木田、電撃銃貸して」
「否、それは…」
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