壱頁完結物


「犯人の逃走経路が判らない?」
乱歩は隠す気もなく呆れた顔を警察に晒す。
「防犯カメラには此処までしか映っておらず…」
「君達はカメラに頼らないと足取り一つ掴めないのか。本当に莫迦だなぁ」
映像を覗き込んだ乱歩は目を見開いた。

「不味い…犯人が妹の学校に居る…!」


*****


学校は騒然としていた。
刃物を持った男が一人、女生徒を人質にして教室に立て籠っている。
「国木田先生…」
「クソ…下手に動く訳には」
近付けば人質を殺すと脅され、生徒は勿論教師も助けに入れない。
歯を食い縛る国木田の隣に誰かが近付いてきた。
「私に任せて下さい」

「江戸川!?」


*****


「幾らお前でも無理だ。相手は…」
「先生は心配性ですねぇ」
「否、然し…っておい!」
国木田が引き留めるのも聞かず、乱歩の妹は颯爽と教室に入った。
途端に怒鳴り散らす男を宥めようと開いた口からは。
「人質、変わりますよ」

「何かあって乱歩さんに怒られるのは俺だぞ江戸川…!」


*****


男は人質を解放し、女生徒は一目散に教室を出て行く。
其れを見送った妹は男に向かって手を伸ばした。
「さあ、どうぞ」
「お前は確か武装探偵社の名探偵の妹だな…鴨が葱背負ってやって来たってか」
男が笑うと妹も笑みを深める。

男は何も警戒せず、無防備そうな妹の手に掴み掛かった。


*****


人の体が宙に浮いている。
天井すれすれを通り過ぎた足は重力に従って地面に落ちていく。
「がはぁっ!?」
「油断し過ぎですよ。“武装”探偵社を嘗めて貰っては困ります」
背中から着地したのは男の方だった。
激痛に悶える男に国木田が近付く。

「大人しくしろ、抵抗すれば次は俺が投げる」


*****


程無くして警察と乱歩が学校に到着し、男は身柄を拘束された。
「怪我は無い!?嗚呼もう警察が無能なせいでお前が危険な目に…!!」
「落ち着いてお兄ちゃん」
ぎゅうぎゅうと抱き締められ、妹は酸素を求めて顔を上げる。
「武装探偵社員ならあれ位対処出来なきゃ」

「其れはそうだけど…」


*****


「大体国木田君、君が率先して出て行く場面じゃないのかい」
「…申し訳ありません、乱歩さん」
乱歩に向かって深々と頭を下げる国木田に周りの生徒がザワついた。
「江戸川さんのお兄さんと先生って如何云う関係?」
「先生を君付けで呼ぶなんて…」

「お兄ちゃん、落ち着いてってば」


*****


「教師が近付くのは人質に危険が及んだし、向こうは私の事知ってたし、合理的な判断だよ」
「全く…」
「其れにね」
妹はニッコリと笑って国木田を見た。
「福沢先生の一番弟子としては、弟弟子は護ってあげないと」
国木田は眉間に皺を寄せ、眼鏡を掛け直した。

「次は頑張ってよ、国木田君」


*****


「へぇ、乱歩さんの妹さんは国木田さんの姉弟子なんですね!」
当時の話を聞いた敦が声を上げる。
「ちなみに、国木田が社長から一本も取った事無いって話は聞いた?」
「はい、聞きました」
「実は妹からもまだ二本しか取れてないんだよ」
「えっ」

後ろ耳で聞いていた国木田が苦い顔をした。



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